海賊版天国だった中国が『孤独のグルメ』をリメイクするまで
また新規参入者が次々と登場したことも響いた。検索大手・百度が創設した愛奇芸は海賊版コンテンツを排した、正規配信だけの高品質サイトとして人気を博した。膨大な作品の配信権を押さえた楽視網も急成長。スマートフォンメーカーとして台頭したシャオミも独自のコンテンツ配信サービスを展開した。
さらには正規版配信の流れなどなんのそのと海賊版コンテンツ見放題の中小サイトも次々とあらわれる。先日、中国共産党中央ネット安全・情報化領導グループ弁公室と国家新聞出版広電総局が違法動画配信アプリのリストを公開したが、その数はなんと81に及んでいる。リストには違法とされた理由も附記されているが、中国国内での放送許可を得られていない映画やドラマを流すだけではなく、ベトナムやタイのニュース番組のライブ中継、アラビア語チャンネルのストリーミングなどなど、中国の海賊版動画配信業界がきわめて広範なコンテンツに及んでいることがみてとれる。
こうした中、優酷と土豆網は2012年に合併し優酷土豆が誕生する。それでも巻き返しはならず、2014年4月にはアリババが出資。そして2015年10月16日、アリババが全株式の買収を提案。優酷土豆の経営陣も同意していることから、独自の道を摸索してきた中国動画配信サイトの巨頭がアリババの完全子会社となることが決定的となった。
今も海賊版(と検閲)の問題が動画配信業界を苦しめる
アリババによる優酷土豆の買収は、中国の動画配信サービスが正規版配信に続く、大きな転機を迎えたことを象徴しているように見える。その新たなトレンドとは、ネットオリジナル番組の制作だ。
アリババは傘下に映画制作会社を保有しており、今後は優酷土豆との連携が有力視される。正規配信の雄、愛奇芸も独自番組の制作を始めており、日本のドラマ『世にも奇妙な物語』をリメイクした『不可思議的夏天』を制作している。アリババ・優酷土豆もドラマ『孤独のグルメ』のリメイク『孤独的美食家』を今年放送した。
ネットのオリジナルドラマでは、アメリカのネットフリックスやHuluが先行している。YouTubeも来年から独自コンテンツ制作を始めることが発表された。独自の進化を遂げてきた中国の動画配信サービスだが、米国発の潮流に合致した動きを見せている。世界的潮流へのキャッチアップやサービスの利便性において、日本と比べて中国ははるかに先行している。
その一方で、いかにして収益を確保するかはいまだに未知数だ。例えばネットフリックスのような定額配信サービスだが、中国でも、インターネットテレビやセットトップボックスとのセット売りという形式で年数千円程度の会員権を販売する動きは始まっている。ただしこれはあくまで機器本体の価格込みだからできること。契約期間終了後にどれだけのユーザーが更新するかは未知数だ。正規版配信がトレンドになった後も、コンテンツは無料という海賊版が築いた価値観は残っている。大手はともかく、中小のサイトはいまだに海賊版を配信しており、有料化すればどれだけのユーザーが流出するかわからない。オリジナルコンテンツ制作という世界的潮流に乗っかる一方で、無料広告モデルを脱した課金ビジネスモデルの構築という面では大きく遅れをとっている。