輝きを放つ 受賞企業6社のサステナブルな挑戦【第2回SDGsアワード】

受賞者に授与されたのは、工場で使われなくなった金型を再利用して制作した「アップサイクル」トロフィー PHOTOGRAPH BY NAOYUKI HAYASHI
今年度の「SDGsアワード」では86の事例を、環境、社会、経済、脱炭素、地域課題の5部門に分類。参画したパートナー企業も投票し、編集部と外部審査員である慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授が精査した上で受賞企業を選出、その中から最優秀賞も選んだ。
その選考プロセスとは別に、編集部と蟹江教授の研究室による共同研究を経て選出したのが特別賞の「学生部門賞」だ。
全6企業の事例をここに紹介する。
※今年度の「SDGsアワード」プロジェクトの報告記事はこちら:小さなSDGsをつなぐ──68社の参画、大学との共同研究、トランプ時代の意味【第2回SDGsアワード】
沿線まるごと株式会社 【最優秀賞】【地域課題部門賞】
■「沿線一帯がホテル」の地方創生事業
過疎化と高齢化により事業運営が困難になるローカル線が日本全国に広がっている。そんななか、過疎地域の特徴を活用した観光体験を提供し、鉄道インフラの維持に挑戦しているのが、「沿線まるごと」だ。
舞台は、東京都多摩地域の北西部を走るJR青梅線。無人駅の駅舎がフロント、改修した空き家が客室と、沿線地域一帯を1つのホテルに見立てたプロジェクトを展開する。
2024年春に中核施設としてレストラン・サウナの「Satologue(さとローグ)」を開業。都心から奥多摩に移住した若手シェフがいる一方、地域の高齢者も運営の一端を担う。
また、訪問者が電動トゥクトゥクや電動アシスト自転車をレンタルできるモビリティツーリズムも提供し、2025年春には宿泊棟が開業。
「東京から新たな地方創生モデルを発信し、交通などのインフラ維持を図りながら持続可能な地域をつくろうと取り組んでいる」と、取締役の会田均氏は意気込む。
【選考委員会講評より】
一度は泊まってみたいと思わせる魅力的なモデルだ。沿線一帯を施設として総合的に考える発想の転換は、SDGsが求める「変革」を呼び起こすものとして大きな可能性を感じる。地域の持続可能性と街づくりの在り方を考えるヒントにあふれ、最優秀賞に選出した。今後は、日本から世界に発信できるモデルをつくっていくことを期待したい。
和光紙器株式会社 【学生部門賞】
■高い環境意識を武器に包装から防災へ
創業以来の段ボール加工技術を基盤に、環境に優しい包装資材を手がける和光紙器(埼玉県)。防災への関心が高まるなか、技術力と高い環境意識を結集し、防災グッズを開発している。
廃棄プラスチックを主原料とする「ポリエコレン」は同社独自の環境配慮型包装資材。リサイクルして何度でも使え、CO2の排出削減にもつながる。
このポリエコレンを使い、災害時に使える担架を考案。ほかにも段ボール製のベッドやトイレなど、コスト効率や緊急時の使いやすさを重視しながら開発に取り組んできた。
代表取締役の本橋志郎氏は、「社内のSDGs勉強会を従業員主導で進めてきたからこそ、自発的な活動に発展した」と話す。
【学生たちの講評より】
プラスチックという素材を最大限活用し、包装から防災へと活用の場を広げてきた積み重ねが高評価になった。今後、ポリエコレンの特徴を生かした他分野への展開も楽しみだ。
中日本カプセル株式会社 【環境部門賞】
■ゼラチン再資源化で産廃処分ゼロ達成
世界全体で年間100億トン以上が排出される産業廃棄物。その削減は大きな課題だ。
ゼラチンを原料に、サプリメントに使われる「ソフトカプセル」を製造する中日本カプセル(岐阜県)にとっては、カプセル製造時に発生し、廃棄物として焼却処分する際に温室効果ガスを排出していたゼラチンの残渣(ざんさ)がそれに当たる。
再資源化に取り組み、大学や研究機関と連携してゼラチン由来の肥料を開発。肥料メーカーや農家に出荷し、さらには接着剤やバイオマス発電の燃料といった利用方法も確立して、2024年に産業廃棄物として処理するゼラチン残渣「ゼロ」を達成した。
【選考委員会講評より】
SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に合致し、廃棄物の循環利用を通じてゼロエミッションを目指す姿勢を高く評価した。持続可能なモデルケースとして今後の展開にも期待できる。
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 【脱炭素部門賞】
■グリーン水素を活用、3電池連携で示す未来
燃焼時に温室効果ガスを発生しない水素。なかでも再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して生成する「グリーン水素」は、脱炭素の切り札の1つとして注目される。
パナソニックは水素を使った家庭用の燃料電池を、日本と欧州で累計25万台以上販売してきた実績を持つ。
高効率な純水素型燃料電池と太陽光発電、蓄電池を組み合わせた「3電池連携」により、工場などの稼働に必要な電力を100%再エネで賄うのが同社の推進する「R E 1 0 0ソリューション」だ。
2024年にはイギリス南西部の自社工場に、燃料電池用の水素を全てグリーン水素にしたRE100ソリューションを導入した。
【選考委員会講評より】
日本が目指す水素社会の方向性を示す重要な事例だ。日本国内でグリーン水素の生産体制が整っていないという課題はあるが、脱炭素の先進モデルと判断した。
KGホールディングス株式会社 【社会部門賞】
■日本の浄水技術で「安全な水」を世界に
環境問題の解決や災害時の支援に取り組むKGホールディングス(愛知県)。社会インフラ整備を事業とする橋梁技建の持ち株会社であり、浄水技術の開発に力を入れる。
納豆菌のネバネバ成分であるポリグルタミン酸により水の汚れを取り除く水質浄化剤を活用、導入しやすい簡易的な浄水設備を完成させてバングラデシュやソマリアなど20カ国以上に提供した。
途上国の「水の格差」解消に取り組む同社はさらに、ペットボトルを使って家庭でも水を浄化できる簡易キット「アクアリピュア」を開発。海外の地震被災地に寄贈したほか、日本国内でも災害への備えとして普及が進む。
【選考委員会講評より】
安全な水の確保という観点から非常に意義ある取り組み。水資源は世界的な課題だが、日本でも半導体製造などで水需要は増加している。災害時に有効活用できる点も強みと言える。
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 【経済部門賞】
■新しい農業モデルで持続可能なトマトを
高齢化と労働力不足が深刻化する日本の農業。トマト農家も例外ではない。ケチャップやトマトジュースの原料となる加工用トマトは以前はほとんど国内生産だったが、栽培面積は大幅に減少した。
全国21の地域で宅配生協を展開する「生活クラブ」は「持続可能で、家族が安心して食べられるもの」を長年、生産者と共に追求してきた。オリジナル商品の中でも「信州トマトジュース」は持続可能な生産・消費を実現した成果の1つだ。
1995年、組合員が苗植え・収穫に協力する制度をスタート。その人件費や交通費も購買価格に反映され、トマトジュースを買うこともまた、間接的に「農業」を成立させる仕組みになっている。
【選考委員会講評より】
繁忙期に組合員が労働力を提供し、それがボランティアではないという仕組みを構築。持続可能な農業経営のモデルとして価値が高く、優れた取り組みだ。

アマゾンに飛びます
2025年4月1日号(3月25日発売)は「まだ世界が知らない 小さなSDGs」特集。トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら