最新記事
リーダー論

坂東眞理子が語る、宮沢賢治「雨にも負けず」に学ぶこれからのリーダーに必要なこと

2024年6月7日(金)17時43分
坂東眞理子(昭和女子大学総長)*PRESIDENT Onlineからの転載

「人間は生まれてくるときも一人、死ぬときも一人。そう達観すれば、生きているときに一人であることをさびしがることはない」といわれます。

たしかにそうなのですが、ほとんどの人は、自分の努力を、あるいは苦しさや理不尽な仕打ちに耐えていることを知ってもらいたい、認められたい......と願っています。

自分が何をしても、どうなっても誰も関心を持ってくれないのだと思うと、深い孤独感にとらわれてしまいます。

【「自分を励ます一番いい方法は人を励ますことだ」】

私も20代のころ、長女の子育てをしている駆け出しの公務員で、仕事にも子育てにも自信が持てず、「自分はどうなっていくのだろう」「力がないから子育ても仕事も両方は無理かな」と、将来が見えず苦しんでいました。

そのとき、「大変なのによく頑張っているね」と声をかけてくれた人に、どれだけ救われたことでしょうか。

若いときは、物事を成し遂げるのに大事なのは自己実現の意欲や上昇意欲だと考えていましたが、長い人生を生きてきて、いまは共感の力が社会活動、経済活動の源になるのだと思うようになりました。

宮沢賢治の「雨にも負けず......」の詩も、「飢饉の夏はおろおろとするだけでなんの役にも立てないけど、人々の苦しみに寄り添う存在がじつは大事なのだ」と伝えてくれます。

私は、これからのリーダーは「3つのS」――sympathy(シンパシー〈共感〉)、share(シェア〈分かち合い〉)、support(サポート〈助け合い〉)し合うことが大事だと考えています。

大きな課題や目標を他人事だと思わず仲間とshareする、お互いに力を出し合い補い合って取り組む(support)、そして何よりも困っている人、苦しんでいる人に共感する(sympathy)、この3つのSです。

この3つとも、困っている人、苦しんでいる人への共感が背景にあります。それがエネルギーの源になるのではないかと思います。

「自分なんて何もできない」「誰からも必要とされていない」「人に迷惑をかけないのが一番」などという気分になると、穴に引きこもりたくなりますが、おそらくそうした3つのSがあれば、どれだけ歳を重ねてもやるべきことがたくさん見つかって、生涯現役でいられるのではないかと期待しています。

共感する力は、自分に生きる力を与えます。アメリカの文豪マーク・トウェインも「自分を励ます一番いい方法は人を励ますことだ」と、素敵な言葉を遺しています。

newsweekjp_20240607084438.png坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 8
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中