「名前覚えたからな。夜道、気をつけろ」 ゴネ得知る迷惑客がコールセンターで執拗に食い下がるワケ
オペレーターより給料はいいが、ストレスは溜まるだろう。その点では正社員であろうと派遣社員であろうと違いはない。
利用停止日が近づくと支払いの延期を頼んでくる電話に追われ、電波がとまる利用停止日は電話が鳴りっぱなしになる。オペレーターに呼ばれたSVがフロアじゅうを走りまわる。
「電話が使えないんだけど! どうなってんのよ!」
「なんで使えねえんだ? 何? 払ってからだ? いいからさっさと使えるようにしろ!」
「名前覚えたからな。夜道、気をつけたほうがいいぞ」
「バカ野郎! 死ね!」
気味が悪い...同じ言葉をただ繰り返す
怒鳴られたり脅されたりする(※5)のもつらいが、同じ言葉をただ繰り返すだけの人も得体が知れず気持ちが悪い。
※5:「殺すぞ」というような脅し文句を言われた場合、「今なんとおっしゃいました?」と聞き返し、再度言うようであれば「その言葉は脅しになりますので切らせていただきます」と言って電話を切ってよかった。実際に私も「ぶっ殺すぞこの野郎!」と言われたことがある。切ってもよかったのだが、我慢ならずに応戦した。
「ドコモ中央料金お問い合わせセンター・吉川でございます」
「すぐつなげ」
「はい?」
「すぐつなげ」
データを呼び出してみると、2カ月前に支払いの延期をしている。これは断らなければならない。
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「前回お約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「前回、9月27日に『今回限り』(※6)とお約束いただいてますよね?」
※6:支払い延期を受ける際には「今回限り」と約束してもらうのがルールだった。それでも、2回目、3回目の人も多く、際限なく「今回限り」を繰り返す人もいる。
「すぐつなげ」
クチャクチャというガムを噛む音がひっきりなしに聞こえる。まっとうな仕事をしている人間ではなさそうだ。
「お支払いの延期は何度もできないんですよ。それで前回、『今回限り』とお約束いただいてるんですよ」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
薄気味悪くなってきた。クチャクチャというガムの音も不快だ(※7)。この男が本気で怒ったらどうなるのだろう。待ち伏せして痛めつけることくらいしそうな気もしてくる。こういう人には深入りしたくない。断らなければならない案件だが、やむを得ない。
※7:クチャクチャという音が不快なだけでなく、ガムを噛みながらの会話は強烈な見下され感を与えられる。
「『今回限り』とお約束していただければやらせてもらいますが、お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」
「お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」
「ですので、お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」
なぜ同じ言葉しか言わないのか。気味が悪い。早く切りたい(※8)。
※8:オペレーター側から電話を切ることは禁止されている。しかし慣れてくるにしたがって、「お前じゃダメだ。上に代われ」と言わせるテクニックがついてきた。早く切りたいときは、お客がこのセリフを言うように誘導した。
「今回はやらせてもらいますが、25日までにお支払いの確認が取れない場合は再度ご利用ができなくなります。お支払いの用紙はお持ちで......」
「すぐつなげ」
「ですので、今回はやらせてもらいます。あと5分ぐらいで利用再開になります。ですがこのようなことは今後一切できませんので......」
ガムを噛む音を残して電話は切れた。