最新記事
医療

女性より男性が高リスク。目の寿命が尽きるAMDの一因「光環境の変化」とは?

2022年2月5日(土)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

また、性差にも興味深い話があり、白人は女性が男性より多く、男性に多い日本人とは逆です。その理由はよくわかっていません。

日本人男性の喫煙率が高いからとも言われますが、最近は男性の喫煙者も減少しており、原因はそれだけではないと思われます。食習慣やメタボリックシンドロームのような全身要因に加え、網膜自体やそれを取り巻く血液循環に何らかの性差があるのではないか、と筆者は考えています。

発症を加速させる生活環境の変化

患者数が増加した最大の要因は、高齢人口の増加です。しかし、50 歳以上の有病率が高くなっていることから発症率も増加していると考えられます。

久山町研究で1998年から2007年の9年間に新たにAMDを発症した人は1.4%(男性2.6%、女性0.8%)でした。この値は白人の3.3%より低く、黒人の0.7%より高いものでした。

しかし、男性だけを見ると日本人の発症率は白人男性よりむしろ高く、女性が低いために平均が低くなっているだけです。したがって、今後、男性の患者が欧米並みに増加することが懸念されます。

では、なぜ発症率は上昇するのでしょうか。それを理解するには、AMDが発生するメカニズムを知る必要がありますが、ここでは、その原因について説明したいと思います。

AMDの発症には「遺伝」と「環境」がかかわっています。環境要因で大きなウエイトを占めるのが光環境、食生活、タバコ、動脈硬化、そして血圧です。

久山町研究が結果を発表した1998年と2012年に70歳だった方々の誕生年は、前者が1928年(昭和3年)、後者が1942年(昭和17年)です。この両者を取り巻いた光環境を考えると、そこには大きな差異があることがわかります。

日本で初めて蛍光灯が発売されたのが1940年(昭和15年)、一般家庭での使用は昭和30年代なので、昭和3年生まれの方は大人になってから蛍光灯のある暮らしを送り始め、昭和17年生まれの方は学齢期から蛍光灯の明かりを見ていたことになります。

また、カラーテレビの放送開始は1960年(昭和35年)ですから、昭和3年生まれの方は30歳を過ぎて初めてカラーテレビを目にし、ワープロが活躍した昭和60年代にはすでに定年を迎えていました。

いっぽう、昭和17年生まれの方は、現役時代に仕事でワープロを使い、パソコンも始めていたでしょう。

このように、両世代の間においても、眼に入る光の量が急に増加していることがわかります。

その後のIT機器の普及は目覚ましく、1995年に「Windows95」が発売され、98年にはNTT1社だけだった携帯キャリアも、いまでは数多くの会社が競い合い、小学生から高齢者まで毎日スマホ画面を見ています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

現代自、競争激化で収益鈍化を予想 第4四半期17%

ビジネス

中国株式市場、保険会社が毎年数千億元を投入へ=証監

ワールド

プーチン氏、戦時経済の歪み認識 交渉によるウクライ

ワールド

シンガポールのコアCPI、12月は前年比+1.8%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 8
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 9
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 10
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 4
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中