女性より男性が高リスク。目の寿命が尽きるAMDの一因「光環境の変化」とは?
また、性差にも興味深い話があり、白人は女性が男性より多く、男性に多い日本人とは逆です。その理由はよくわかっていません。
日本人男性の喫煙率が高いからとも言われますが、最近は男性の喫煙者も減少しており、原因はそれだけではないと思われます。食習慣やメタボリックシンドロームのような全身要因に加え、網膜自体やそれを取り巻く血液循環に何らかの性差があるのではないか、と筆者は考えています。
発症を加速させる生活環境の変化
患者数が増加した最大の要因は、高齢人口の増加です。しかし、50 歳以上の有病率が高くなっていることから発症率も増加していると考えられます。
久山町研究で1998年から2007年の9年間に新たにAMDを発症した人は1.4%(男性2.6%、女性0.8%)でした。この値は白人の3.3%より低く、黒人の0.7%より高いものでした。
しかし、男性だけを見ると日本人の発症率は白人男性よりむしろ高く、女性が低いために平均が低くなっているだけです。したがって、今後、男性の患者が欧米並みに増加することが懸念されます。
では、なぜ発症率は上昇するのでしょうか。それを理解するには、AMDが発生するメカニズムを知る必要がありますが、ここでは、その原因について説明したいと思います。
AMDの発症には「遺伝」と「環境」がかかわっています。環境要因で大きなウエイトを占めるのが光環境、食生活、タバコ、動脈硬化、そして血圧です。
久山町研究が結果を発表した1998年と2012年に70歳だった方々の誕生年は、前者が1928年(昭和3年)、後者が1942年(昭和17年)です。この両者を取り巻いた光環境を考えると、そこには大きな差異があることがわかります。
日本で初めて蛍光灯が発売されたのが1940年(昭和15年)、一般家庭での使用は昭和30年代なので、昭和3年生まれの方は大人になってから蛍光灯のある暮らしを送り始め、昭和17年生まれの方は学齢期から蛍光灯の明かりを見ていたことになります。
また、カラーテレビの放送開始は1960年(昭和35年)ですから、昭和3年生まれの方は30歳を過ぎて初めてカラーテレビを目にし、ワープロが活躍した昭和60年代にはすでに定年を迎えていました。
いっぽう、昭和17年生まれの方は、現役時代に仕事でワープロを使い、パソコンも始めていたでしょう。
このように、両世代の間においても、眼に入る光の量が急に増加していることがわかります。
その後のIT機器の普及は目覚ましく、1995年に「Windows95」が発売され、98年にはNTT1社だけだった携帯キャリアも、いまでは数多くの会社が競い合い、小学生から高齢者まで毎日スマホ画面を見ています。