最新記事
医療

女性より男性が高リスク。目の寿命が尽きるAMDの一因「光環境の変化」とは?

2022年2月5日(土)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

仕事で一日中パソコンのディスプレイを見続け、帰宅後もLEDテレビ、その後は深夜までスマホと、眼を集中させて明るい画面の文字や画像を見る時間は、「昭和3年生まれ」に比べてケタ違いに増加したと思われます。

それはすなわち、「体内時計(サーカディアンリズム)に反した生活」の始まりを意味します。サーカディアンリズムとは、「朝に起きて夜は寝る」という生理的なサイクルのことです。

網膜の細胞は「ビジュアルサイクル」といって、物を見るために必要な視色素を再生しながら恒常性を維持しています。そのためには、目を休める時間が必要です。

だから人は本来、夜暗くなると目を休めて、ビジュアルサイクルによって視色素を回復させていたのです。夜中にスマホを長時間見続ける行為は、そのサイクルに抗い、回復を阻害すると考えられます。

また、食生活も変わりました。昭和3年生まれの方は戦中戦後の食糧難の時期を過ごし、その後はいわゆる和の食卓を囲んできたわけですが、昭和17年生まれの方は高度経済成長期、イケイケどんどんの時代に焼き肉でビール、フランス料理でワインなど、高カロリー、高脂質食を楽しまれたことでしょう。

このような食習慣の変化も、AMD発症率を上昇させた可能性が高いと考えられます。

現代人は「発病」を試されている?

人類は長い歴史で進化と適応を繰り返してきましたが、最近は生活環境が短期間で目まぐるしく変化しており、眼の働きがこれに追いつけていない可能性が十分にあります。

環境の変化は後の世代ほど激しく、いまでは赤ちゃんがお母さんのスマホを見て、幼児がさくさくタブレット端末を操作しています。この子たちは、これから90年以上もモニターの光源を見続けるのでしょう。

ただし、ここで誤解がないようにお話ししておきますが、テレビやパソコン、スマホ画面の輝度は、眼に障害を及ぼすほど強くはないので、それらを見ること自体はまったく問題ありません。パソコンを使って仕事も頑張り、DVDも楽しんでください。

ただ、筆者が問題と考えるのは、本来眼を休めるべき時間帯に光を見続けることが本当に安全かと問われれば、「安全だ」と言い切れるだけの科学的データは乏しいということです。

科学者は動物実験で光の網膜に対する障害を研究してきましたが、多くは急性実験といって、「どの程度強い光を眼に当てると障害が起こるか」というような内容です。いっぽう、「パソコンを見続けさせたサルと自然の野山で育てたサルの数十年後の違い」といった研究はとても困難で、ほぼ不可能です。

深夜まで続く慢性的な光暴露や高脂質食が眼にどのような影響を及ぼすのか――それを研究するための実験動物は、実のところいまを生きる私たちなのかもしれません。

※抜粋第3回はこちら:光酸化ストレスから食生活まで。失明を引き起こす目の病気「加齢黄斑変性」の発症要因とは?

「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性
 治療と予防 最新マニュアル』
 尾花 明 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中