「車椅子じゃスカートは穿けない!」 ユナイテッドアローズ創業者を奮い立たせた女性の悩み
「機能的でかわいい」アイテムが誕生
半年を経て出来上がったのが「フレアにもタイトにもなるスカート」です。
前身頃はプリーツスカート、後身頃がゆったりとヒップにフィットしたタイトスカートになっていて、「プリーツ1つひとつ」にファスナーがついています。
なにがすごいって、このファスナーを閉じるとスカートがタイトに、開くとフレアになる。「1着1枚で二度おいしい」みたいなこの洋服は、タイトにしておけば移動中、車イスの車輪に巻き込まれる心配もありません。人と会う場面ではファスナーを開いてフレアにすれば、ちょっと華やかなイメージになります。つまり、シーンによって表情を変えられる、まったく新しいスカートが誕生したんです。
また、筋ジストロフィーという病気で思うように身体を動かせない真心ちゃんという女の子がいました。
彼女の課題は、「口の周りの筋力が弱く、どうしてもよだれがたれてしまう」こと。でも、よだれが出るからといって赤ちゃん用のスタイをつけるのは、8歳の女の子にとってはいささか恥ずかしいことです。
その課題を解決するためにユナイテッドアローズが用意したのは、「スタイにもなるエプロンドレス」。
つまり、「一見するとドレスに見えるスタイ」という逆転の発想でした。
たったひとりのニーズが、新しい「美」を生み出した
当事者が喜んでくれたのはもちろんのこと。では企業の商品として見たときのお客様の反応はどうだったか。
うれしかったのは、「スタイにもなるエプロンドレス」の当事者だった女の子のお母さんが「(健常児の)お姉ちゃんが着てもかわいい」と言ってくれたこと。また、「フレアにもタイトにもなるスカート」も、すこしズラして着用すると、片方はプリーツで、もう片方は曲線的になり、アシンメトリー(左右非対称)を表現できることから、新しい着こなしができるアイテムとしてプロ受けする商品となりました。
障害のある「ひとりのため」に生まれたこれらのアイテムは、結果的に、障害のあるなしにかかわらず「カッコいいから」「機能性が高いから」という理由で、さまざまな人に購入されていったんです。
2018年4月。発表記者会見を開催すると、メディアが詰めかけました。そして、ユナイテッドアローズの創業メンバーで、長らくクリエイティブディレクターをつとめた栗野宏文さんは「041」をこう評価してくれました。
「メガネが開発されるまでは、目の悪い人は障害者だった。今やメガネは個性。たったひとりのニーズが、新しいデザインと『美』を生み出しました。これはいわゆる社会貢献ではなく、新しいビジネスの第一歩。その結果として、世の中の役に立てばいい」。
架空のペルソナやターゲットではなく「ひとり」を起点に商品を開発することが、世の中にとっての新しい価値を生んだのでした。
ひとりを起点に、みんなにとって心地いい服をつくる。つまり、「041(ALL FOR ONE)」は「140(ONE FOR ALL)」になったんです。
「041は、服屋の原点だったんですよ」
栗野さんに聞いてみたことがあります。「どうしてふたつ返事で引き受けてくれたんですか?」と。するとこんな話をしてくれました。
「041は、服屋の原点だったんですよ。そこに居るのが、お客さんだったからです」。
ハッとしました。
「歩きやすい靴が欲しいとか、軽くて温かい上着が欲しいとか、ニーズはどんな人にでもありますよね。本来、それを具現化することで僕らはこの商売を成り立たせてきたわけです。障害当事者にユナイテッドアローズの本社に来てもらって、さまざまな課題や要求をもらう。それに対して、みんなで『こういうアイデアはどうだろう』と話し合う。目の前に『こんな服が欲しい』と言ってくれる人がいる。
でも今は、縦割仕事や分業化と言ってしまえばそれまでだけど、お客様のニーズは、販売スタッフを通して間接的に聞くことはできても、当事者からは聞けない。だからこそ、当事者から聞けたっていうのは燃えますよね、やっぱり。別に『お困りごとを解決する』っていう意味だけじゃなくて、服を作るプロとして『おもしろいじゃん!』という気持ちがあった。お客さんが喜んでくれるんだったらやろうよ、という」。