最新記事
映画

パレスチナ人とイスラエル人の監督による異色の映画...アカデミー賞最有力『ノー・アザー・ランド』とは?

Watch, Be Touched, and Then?

2025年2月28日(金)18時09分
サム・アダムズ(スレート誌記者)

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(No Other Land)』場面写真

©2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

撮影期間中、住居破壊活動を警護するイスラエル軍兵士は、カメラを向けられることへの反感をどんどんむき出しにしていくように見える。罵声を浴びせたり、カメラを地面にたたき落としたりもする。

「感動」で終わらせるな

もっとも、撮影は脅威ではないと、彼らはある時点で判断したようだ。注目する者はいないのだから。「記事にしろ」と、兵士の1人は嘲る。「動画を作成すればいい」


本作をめぐる出来事は、そうした冷笑的見方の裏付けかもしれない。

昨年2月のベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した際、アドラーと共に登壇したアブラハームは、イスラエルによる「アパルトヘイト(人種隔離政策)」を終わらせるよう呼びかけ、反ユダヤ的だとベルリン市長に非難された。

同映画祭でのプレミア上映から1年後の今も、本作はアメリカでの配給会社が決まっていない。アカデミー賞候補作としては、珍しいことだ。ドキュメンタリー映画市場では多くの良作が日の目を見ないままとはいえ、政治的事情が理由でないとは思えない。

トランプは、親パレスチナの抗議活動に参加する外国人学生は「ハマス支持者」として国外退去させる方針だ。これは非人間化の手法であり、ガザを「中東のリビエラ」にすべく、アラブ系住民全員を強制移住させる暴挙への一歩だ。

こんな状況で、マサーフェル・ヤッタの住民の人間らしい姿を捉えようとする作品に、誰が肩入れするだろう?

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダGDP、24年第4四半期は2.6%増 予想上

ワールド

国連総長、米の対外援助削減に懸念表明 弱者に「壊滅

ワールド

英開発相が辞表提出、対外援助予算削減に反発

ワールド

ギリシャで数十万人がスト、列車事故から2年 政府対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 7
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 8
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中