【インタビュー】苦悶するシンガー ニック・ケイヴが「私生活の悲劇」を乗り越え、たどり着いた『Joy』
A Kinder and Gentler Nick Cave
「皮肉なのは、私が共感力のあるタイプではないということ。相手の気持ちに寄り添って回答しようとすると、頑張って自分の最も善良な部分を引き出さなくてはならない。たいてい、『くよくよ考えてもしょうがないよ』と答えたくなる。でも、『それが責任のある回答と言えるのか』と思い直す......この活動のおかげで、ほんの少しだけよりよい人間になれていると思う」
仕事よりも大切なこと
バッド・シーズのライブでは、心を揺さぶられる場面がたびたび生まれてきた。ケイヴはパフォーマンスの最中に観客の手を握ることがよくある。これもファンとの深い絆の表れだ。
「ステージの上ではいつも緊張していて、歌っている間、自分の手をどう動かせばいいのか分からなくなるんだ。ずっと動き続けていれば、音程を外してもバレないかもしれないという思いもある(笑)」と、ケイヴは言う。
「大勢の人たちの不安と愛が渦巻くなかでステージに出ていくときの気持ちは、どんな言葉にも言い表せない。それを軽く考える気持ちには全くなれない。私は音楽にとても真剣に向き合っている。音楽は、現実世界を超越した経験が許される数少ない機会だと思う。そのような機会は、もうほとんど残されていないように思える」