【インタビュー】苦悶するシンガー ニック・ケイヴが「私生活の悲劇」を乗り越え、たどり着いた『Joy』
A Kinder and Gentler Nick Cave
このアルバムで最も感動的な曲は、バッド・シーズの初期メンバーでケイヴの恋人でもあったアニタ・レーンにささげた「オー・ワウ・オー・ワウ(ハウ・ワンダフル・シー・イズ)」かもしれない。
レーンは21年、61歳で亡くなったが、その約2年前に録音されたケイヴとの電話での会話が曲の途中で挿入される。
「メルボルンの音楽シーンが(70年代後半に)立ち上がろうとしていた頃、美術学校出身の連中が多くいて、アニタもその中から頭角を現した。明るくてキラキラ輝いていて美しくて、みんなの中心で幸せそうに笑っていた」
新しいことに挑み続けて
バッド・シーズのデビューアルバム『フロム・ハー・トゥ・エターニティ』がリリースされてから今年でちょうど40年になる。しかし、長く活動を続けようとは思っていなかったと言う。
「35年前のインタビューが残っている。その中でこう言っていた。『少なくとも、このくだらないものを、年を取ってまで続けるつもりはないね』。ずいぶんと音楽を見下したことを言っていたものだが、ご覧のとおり今も続けている」
バッド・シーズを引っ張ってきたのは言うまでもなくケイヴだが、バンドが成功できたのは歴代のメンバーのおかげだと思っている。
「手柄はきちんと評価したい。それに、ほかの人と一緒に仕事をして成果を上げてきたことに誇りを持っているんだ」と、ケイヴは言う。