あの『推定無罪』をアップデート...34年前の「白人男性の迫害妄想」系映画とは何が違う?
Updating “Presumed Innocent”
検事補のラスティ(中)は元不倫相手の殺人容疑で裁かれる立場に APPLE TV+
<原作小説を再解釈したジェイク・ギレンホール主演のアップルTVプラス版。時間制限に縛られないドラマ形式のおかげで、より多くの伏線やひねりが盛り込まれている(作品レビュー)>
ハリウッドではやりの「白人男性の迫害妄想」系映画の1つ──米作家スコット・トゥローのベストセラー小説を、アラン・J・パクラ監督が映画化した法廷ミステリー『推定無罪』は1990年の公開当時、そんな印象を与えた。
こうしたトレンドの「顔」だったのが、俳優マイケル・ダグラスだ。『危険な情事』(87年)で一夜の遊びのつもりだった相手にストーキングされ、『ディスクロージャー』(94年)で上司の女性からセクハラを受け、『氷の微笑』(92年)ではセクシーな連続殺人犯に脅かされる白人男性を演じていた。
ハリソン・フォードが主演した『推定無罪』は、より評判が高く上品だったが、前提となる設定は当時ならでは。
だから、有名プロデューサーのデービッド・ケリーが原作小説をアップルTVプラスのドラマとして新たに映像化するという決断は、それ自体がミステリーだった(6月12日から配信開始)。
原作も映画版も、ヒットしただけの理由があるのは確かだ。トゥロー作品の多くと同じく、物語はスイス製腕時計のように乱れなく進み、主人公のシカゴの地方検事補ラスティ・サビッチ(ジェイク・ギレンホール)を無慈悲なペンチのように締め付けていく。
その発端は、ラスティの同僚キャロリン・ポルヒーマス(レナーテ・レインスベ)が無残な他殺体で発見された事件だ。上司である地方検事レイモンド・ホーガン(ビル・キャンプ)は、ラスティが捜査を担当するよう主張する。
地方検事職の選挙が迫るなか、ホーガンは対立候補のニコ・デラ・ガーディア(O・T・ファグベンル)相手に苦戦中。仲間を襲った犯罪にも揺るがない姿勢をアピールするため、最優秀の部下を捜査に起用する必要があった。
最初のうち、ラスティはためらうが、自分以外の選択肢は才能で劣るトミー・モルト(ピーター・サースガード)だ。ラスティは会議で「私はトミーより優秀だ」と断言する。モルトの目に恨みが宿ることに気付かないまま......。
この人選の問題は、ラスティがキャロリンと不倫関係にあったことだ(2人は事件の数カ月前に別れていたが)。
ホーガンが選挙で敗れた後、デラ・ガーディアとモルトはラスティに攻撃の矛先を向ける。事件直前、キャロリンに執拗に連絡していたことが判明し、ラスティは殺人容疑で裁判にかけられる。
より時間に制限がないドラマ形式のおかげで、本作はより多くの偽の伏線やひねりを盛り込むことができている。さらに、物語の根底にある意味合いがアップデートされ、キャストも多様化している。