最新記事
ドラマ

あの『推定無罪』をアップデート...34年前の「白人男性の迫害妄想」系映画とは何が違う?

Updating “Presumed Innocent”

2024年7月4日(木)14時34分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

『推定無罪』のルース・ネッガ

ラスティとバーバラは子供2人と恵まれた郊外生活を送っているが...... APPLE TV+

ラスティとキャロリンの不倫は人事面で最悪の事態だという点を、本作は少なくとも認識している(映画版では、キャロリンの死を知ったホーガンが「もったいない。あんなにセクシーな子だったのに」と発言する)。

主人公が犯した「罪」は

映画版では耐えるだけの主婦だったラスティの妻、バーバラ(ルース・ネッガ)も肉付けされている。画廊で働く彼女は、夫の逮捕が注目を集めたせいで仕事を失い、家族のために自分の人生を犠牲にしたこともほのめかされる。


とはいえ、なぜ彼女がそんな犠牲を払ったのか、疑問に思わずにいられない。本作でのラスティの夫としての生活は、穏やかで快適な郊外暮らしと職場のつまらない権力争いで色あせた灰色の世界だ。

検事が家宅捜索や性生活に関する尋問にさらされ、屈辱を受ける側になるのが、原作の巧みな設定だった。ドラマ版のラスティは、そのせいでさらに生気のない存在になる。

運命にほぼ抵抗しない姿、少しずつ明かされるキャロリンとの関係の真実──彼は本当に有罪かもしれないと思わせるよう、ドラマは仕向ける。

実際、殺人を犯したかどうかはともかく、彼は多くの点で「有罪」だ。最悪なのは、自らの苦悩が少なくともある程度まで自業自得だと、本人が分かっていることだろう。

そのため、本作には後悔の感情が漂う。それに対して原作と映画版では、キャロリンは計算高い野心家だ。80~90年代の一連のハリウッド映画は、職場に「侵略」する女性を不安視し、彼女たちが性的な力を利用するのではないかとの恐れに満ちていた。

映画版のキャロリンは超絶的に美しいが、ノルウェー映画『わたしは最悪。』(21年)で国際的に知られたレインスベはより親近感がある。ドラマ版でラスティの心を捉えるのは、虐待を受けた少女にキャロリンが示した思いやりだ。

悪役的立場のファグベンルとサースガードは、刺激剤として効いている。表面上、本作は殺人ミステリーだが、最も生き生きしてくるのは職場内の駆け引きに焦点を当てたとき。ファグベンルとサースガードが登場すれば、いつでもそうなるのだが。

残るは、エンディングの問題だ。原作と映画版の終幕は、当時の男性の妄想を容認する形になっていた。ドラマ版の最終回は、筆者ら批評家にもまだ公開されていないが、真犯人の正体が変更されていても不思議ではない。

本作は既に、大幅な設定変更を行っている。90年代以降の世界の変化を考えれば、あの悪名高いどんでん返しを考え直すのは、最も歓迎すべき「リメーク」ではないか。

©2024 The Slate Group

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国、企業に緊急支援措置へ 米関税受け大統領代行が

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中