独占インタビュー:師弟関係にあった佐渡裕が語る、「小澤先生が教えてくれたこと」
A Tribute to My Maestro
新日本フィルで、私はベートーベンの第九を任されてサントリーホールで練習していました。最後の本番前のリハーサルで、オーケストラがやけに緊張していて、どうもムードが違う。途中で、客席にいる誰かに合唱とオーケストラの音のバランスを聞こうと思って、指揮をしながら振り返って「バランスどおぉー?」って叫んだら、「オッケーです!」と大声で返事をしてくれた人がいた。なんとそれは、手で大きく丸を作った小澤先生だったんです。
こうした逸話は、先生に関わった人は誰もが持っていると思います。
小澤先生がウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任されたのは2002年、67歳のときのことです。決して先生が得意とはいえなかったオペラという分野です。しかも先生はドイツ語はすごく苦手だったはず。政治力が渦巻く歌劇場で、オーケストラだけで200人、合唱団や熟練のスタッフや歌手や演出家と舞台をつくっていくのは、いくら小澤先生でも覚悟のいることだったでしょう。最後まで挑戦を忘れなかった小澤先生には、敬服の思いしかありません。
私は昨年4月、小澤先生が約50年前に創設した新日本フィルの音楽監督に就任しました。小学生のときから憧れていた小澤先生のオーケストラを引き継ぐ──これも運命だと思っています。(構成・本誌編集部)
佐渡 裕(指揮者)
京都市立芸術大学卒業。1987年、米タングルウッド音楽祭に参加。その後、故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年、新進指揮者の登竜門として権威あるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。2015年よりオーストリアで110年以上の歴史を持つウィーンのトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督を務め、2023年4月より新日本フィルハーモニー交響楽団第5代音楽監督に就任。テレビ番組『題名のない音楽会』の司会を2008年から7年半務めた。