拍手と共に失笑も買った「原爆の父」...その「複雑な」人間像は、映画『オッペンハイマー』でどう描かれたか?
A Mind-Blowing Tale
大恐慌時代の30年代、あるいは米ソが反ナチス戦争で手を組んでいた40年代前半でさえ、左翼的な思想を持つからといって共産主義者とは限らなかった。
しかし聴聞会が開かれた54年は冷戦の真っただ中で、共産党シンパと共産主義者、ソ連のスパイは同じようなものとして扱われた。
FBIは長年、オッペンハイマーの電話を盗聴していた。聴聞会は盗聴の記録を入手したが、裁判ではないため、その存在をオッペンハイマーや彼の弁護士に知らせる必要を感じなかった。
彼らはオッペンハイマーと弁護士の通話まで入手しており、記憶と記録の食い違いを指摘して恥をかかせた。さらに妻キティが傍聴している場で、元恋人(フローレンス・ピューが演じたジーン・タトロック)との不倫を問いただした。
映画は多くの時間を、この聴聞会に費やしている。観客は敵対的な尋問者の姿を見て描写の正確性に疑問を感じるかもしれないが、映画は事実そのもので、聴聞会の公開記録がほぼそのまま再現されている。
さらに、聴聞会を原子力委員会のルイス・ストラウス委員長の個人的な復讐の道具として描いた点でも、ノーランは正確だ。
ストラウス(ロバート・ダウニーJr.が好演)は水爆の熱心な擁護者だっただけでなく、オッペンハイマーから屈辱的な扱いを受けていた──最初は議会の公聴会で、その後は原子力委員会で何度も。そして、彼はその恨みを決して忘れなかった。
オッペンハイマーは、自分ほど頭の切れがよくない人間(ほぼ全ての人)をいじめ、嘲る傾向があったため、敵をつくった。そして、恨みがましい性格のストラウスと仲たがいするという過ちを犯した。
追い打ちをかけたのは、ロスアラモスの科学者の1人、エドワード・テラー(ベニー・サフディ)だ。テラーは原爆プロジェクトに満足せず、水爆開発の推進を望んだ。彼とオッペンハイマーはこのことで口論をしている。