拍手と共に失笑も買った「原爆の父」...その「複雑な」人間像は、映画『オッペンハイマー』でどう描かれたか?

A Mind-Blowing Tale

2023年8月2日(水)14時27分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

オッペンハイマーは水爆は戦場で標的を破壊する手段としてはあまりに強力で、狙えるのは大都市だけだと主張。アメリカが水爆を製造すればソ連も追随するだろうが、その場合、戦争が勃発すればアメリカの都市も壊滅的な打撃を受けるだろうと訴えた。

映画で描かれているように、確かに彼は最終的には、この相互の壊滅的破壊力が核兵器使用や開戦の抑止力となるという考えに至った。つまり核兵器全般に反対したわけではない。

50年代前半の時点で、オッペンハイマーは科学者仲間や議員、一般大衆の間で依然として大きな影響力を有していた。原子力委員会の諮問委員会の委員長や、かつてアインシュタインが率いたプリンストン高等研究所の所長を務めていた。

だが水爆への慎重姿勢のせいでプロジェクト資金は脅かされ、水爆推進派は彼をつぶしにかかった。54年、オッペンハイマーはセキュリティークリアランス(機密情報にアクセスできる資格)の剥奪を審議する聴聞会にかけられた。

 
 
 

ソ連のスパイと疑われて

オッペンハイマー自身にも攻撃される要素はあった。30~40年代初頭にかけて、彼は共産党シンパ──党員ではなかっただろうが、人種統合やスペイン内戦での反ファシスト兵士の支援といった共産党の主張を積極的に支持する立場──だった。

しかも妻のキティ(エミリー・ブラント)や弟、親しい友人の何人かは共産党員だったことがあり、彼自身も物理学の教鞭を執っていたカリフォルニア大学バークレー校で党支部の会合に出席したことがあった。

こうした人脈を理由に、マンハッタン計画の責任者に任命された43年以降も、セキュリティークリアランスの問題は保留にされており、同計画の軍事責任者レズリー・R・グローブズ将軍(マット・デイモン)の尽力でなんとか資格を確保した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中