拍手と共に失笑も買った「原爆の父」...その「複雑な」人間像は、映画『オッペンハイマー』でどう描かれたか?
A Mind-Blowing Tale
戦後、テラーは水爆製造の専門の研究所を造るよう働きかけたが、オッペンハイマーが反対したため、聴聞会でオッペンハイマーに不利な証言をした。
委員会は2対1の多数決でオッペンハイマーのセキュリティークリアランス剥奪を決定した。一方、テラーはカリフォルニア州リバモアに研究所を新設する資金を獲得した。
この出来事は対立に発展し、科学界は、テラー率いるタカ派とオッペンハイマー率いるハト派に分裂した。また、科学者と政府との間にも溝ができ、多くの科学者は、自分の信念を損なわずに助言ができるのか疑問を抱いた。国民に与えた損失は計り知れない。
オッペンハイマーの正当性は、最終的に2つの局面で証明された。
59年、ドワイト・アイゼンハワー大統領はストラウスを商務長官に指名したが、マンハッタン計画に参加した科学者のデービッド・ヒル(ラミ・マレックが熱演)は、ストラウスがつまらない復讐のためにオッペンハイマーに反対する運動を組織したと証言した。
その結果、上院はストラウスの指名を否決した(このシーンは原作にはなく、ノーランが自ら掘り起こした上院公聴会の記録を基にしている)。
科学者たちの罪悪感
63年12月には、リンドン・ジョンソン大統領がオッペンハイマーに、米科学界の権威ある賞、エンリコ・フェルミ賞を授与し、賞金5万ドル(現在の50万ドルの価値に相当)も与えられた。
ホワイトハウスでの授賞式で、テラーに握手を求められたオッペンハイマーはそれに応えたが、妻キティは拒否した。映画では、この勝利の瞬間を正確に描いている。
3時間という長さにもかかわらず、触れられていない側面もある。マンハッタン計画は大規模なチーム作業だったが、それは深く描かれていない。
テラーやアーネスト・ローレンス(ジョシュ・ハートネット)、イジドール・ラビ(デイビッド・クロムホルツ)を除き、ハンス・ベーテ、エンリコ・フェルミ、ジョージ・キスチャコフスキーといった才気あふれる多彩な科学者たちは、カメオ出演の端役のように登場するだけだ。