オタクの聖書『指輪物語』にテック業界の大物や極右政治家が魅せられる...その理由とは?
Right-Wing Rings of Power
中つ国を深く敬愛する保守派は、アメリカのテック業界の大物だけではない。昨年10月にイタリアの首相に就任した極右のジョルジャ・メローニは、選挙で選ばれた指導者の中で最も敬虔なトールキン信者かもしれない。
1993年に10代のメローニは、イタリアの極右のトルーキン・ファンが集まる「キャンプ・ホビット」に参加した。70年代後半に始まったこのイベントは「ファシストのウッドストック」とも呼ばれ、読書会や政治討論、ロックコンサートなどが行われた。
反グローバリゼーション
昨年のニューヨーク・タイムズ紙の記事でメローニは、『指輪物語』に見いだした反グローバリゼーションのメッセージを解説した。彼女によると、トールキンが描く種族にはそれぞれ「特異性の価値」がある。つまり保存する価値のある特定の文化とアイデンティティーを持っている。
この理論を、メローニはヨーロッパの主権国家に住む人々にも当てはめる。イタリア人は、ホビットやエルフやドワーフと同じように固有の存在であり、そのアイデンティティーを脅かすものから自分たちを守るべきなのだ。
南カリフォルニア大学のジェームズは、メローニが得たかもしれない別のインスピレーションを挙げている。3部作の終盤で、指輪の仲間のうち4人の旅人たちがシャイアに戻ると、牧歌的な里はサルマンたちに乗っ取られ、のどかな田園風景は工業化された荒れ地と化し、住人は奴隷にされていた。
「メローニのように過去を美化したがる人々は、何かにつけて『指輪物語』を持ち出そうとする」とジェームズは言う。「昔はもっと良かった。急激な変化が訪れ、よそ者が侵入し、全てが悪くなってしまった、というわけだ」
ただし、トールキンは中つ国に政治を持ち込むつもりはなかった。1965年版の3部作の序文では次のように書いている。
「内面的な意味や『メッセージ』に関して、作者に意図するところは何もない」「最大の動機は、読者の注目を集め、楽しませ、喜ばせて、時には興奮させ、深く感動させるような、本当に長い物語に挑戦したいという語り手の願望だった」
ジェームズが言うようにあなたが『指輪物語』に見いだすものは、ストーリーについて以上に、あなたについて語っている。
『カラー新版 指輪物語 全3巻 ― 旅の仲間/二つの塔/王の帰還』
J.R.R. トールキン[著]
アラン・リー[イラスト]
瀬田貞二[訳]
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