最新記事

BOOKS

オタクの聖書『指輪物語』にテック業界の大物や極右政治家が魅せられる...その理由とは?

Right-Wing Rings of Power

2023年2月22日(水)13時52分
ジェレミー・リンデンフェルド
メローニ伊首相,ピーター・ティール,パルマー・ラッキー

(左から)メローニ伊首相、ピーター・ティール、パルマー・ラッキー(冥王サウロンのしもべ姿、イラストはイメージ) ILLUSTRATION BY NICOLÁS ZUNIGA

<圧倒的な世界観でオタクを魅了する『指輪物語』。現実世界に忍び寄る「指輪」の魔力について>

映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作にもなったJ・R・R・トールキンの小説『指輪物語』3部作のファンにとって、ホビットとは中つ国の「シャイア(ホビット庄)」で丘の中腹に穴を掘って住居にし、パイプ草を吸って歌ってエールビールを飲んで日々を送っている小太りな人たちだ。

だが現実世界の力ある者の中には、政府の介入や過干渉とは無縁な中つ国でのホビットの暮らしを社会的理想に近いと考える人もいる。

米決済大手ペイパルの共同創設者で2016年の大統領選でトランプ支持を表明したピーター・ティールは、10代の頃に『指輪物語』を愛読。彼が共同創設したデータ分析企業パランティアの社名は物語に出てくる遠くまで見通せる水晶玉(「見る石」とも呼ばれる)に由来し、カリフォルニア州パロアルトにある本社は通称「シャイア」だ。

クラウドセキュリティーサービスを提供するオルカセキュリティーの情報セキュリティー専門家でトールキンのファンだというアンディ・エリスは「企業名がパランティアなんてばかげてると常々思ってきた」と言う。物語のパランティアは覗く者を堕落させる。白(善)の魔法使いサルマンはこの石に魅入られ冥王サウロンのしもべと化す。

ティールのパランティアも「闇」を併せ持つ。国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、米移民関税執行局(ICE)が同社の技術を使って不法移民労働者を摘発し、移民の子供たちを親から引き離す結果になったと指摘。

アムネスティの追及にパランティア側は、自社製品の使用は「合法だが世間一般の基準や価値観と矛盾する活動に当社が加担しているかについて、当然かつ重要な問題を提起する」と回答した。

同社の大衆監視プロジェクトとそれをめぐる透明性の欠如は「基本的自由の侵害への滑り坂」を象徴するとアムネスティのマット・マームディ人工知能(AI)・人権問題顧問は指摘する(パランティア側はノーコメント)。

VR(仮想現実)映像端末で知られるオキュラスVRの創業者パルマー・ラッキーも、設立した軍事テック企業に中つ国の強力なアイテムの名を付けた。冥王サウロンの指を切り落とし、折れた剣を鍛え直して作ったアンドゥリルだ。

アンドゥリル・インダストリーズはAIを駆使した防衛テクノロジーを国防総省や国土安全保障省などに提供。ティールのファウンダーズ・ファンドもいち早く出資した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中