CDが売れない2000年代に入り、韓国の音楽産業だけがやったこと
女性音楽グループとして世界最多の規模のファンを持つ韓国のBLACKPINK Eduardo Munoz-REUTERS
<BTSやBLACKPINKを筆頭に、韓国の音楽がグローバルな存在感を増している。その秘密はどこにあるのか。国際社会文化学者のカン・ハンナ氏がその一端を明らかにする>
「日本のお手本は、間違いなく韓国。もっと早くこの本を読みたかった」
日韓を股にかけ、メディアやコンテンツの研究を行うカン・ハンナ氏の新著『コンテンツ・ボーダーレス』(クロスメディア・パブリッシング)の帯には、元NewsPicks編集長、佐々木紀彦氏(PIVOT代表取締役)のそんな惹句が躍る。
カン氏はソウル出身。国際社会文化学者、タレント、歌人......と複数の顔を持ち、日本で活躍している。
文化コンテンツには多様なやり方があり、日本には日本らしい、韓国には韓国らしい手法があるというのがカン氏自身の考えだが、映画からドラマ、アイドル・音楽グループまで、グローバルな存在感を増す韓国コンテンツへの関心は日本でも高まっている。
そこでカン氏は、この新著で韓国における制作の仕組みや作り手の考え方、韓国コンテンツ産業のマクロ的な分析を中心に、「ボーダーレス」な時代に突入したコンテンツ産業の現状を明らかにした。
本書には、ONE MEDIA代表の明石ガクト氏、中国事情に詳しい動画クリエイターの山下智博氏、iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長の中村伊知哉氏それぞれとの対談も収録されている。
ここでは本書から、コンテンツを徹底的にデジタル化した韓国音楽産業の事例を、抜粋して掲載する(本稿は抜粋の第2回)。
※抜粋第1回:日本と香港を押しのけ、韓国エンタメが30年前に躍進し始めた理由
「DX時代に勝つ方法は何ですか?」と時々質問されることがあります。筆者が韓国カルチャーやコンテンツの成長を研究する中で、ひとつ明確になったことがあります。それはDX時代に誰がいち早くリスクを取るのかということです。
つまり、先に勇気を出すことができた人が未来を変えるという話なのです。革新的な方法でなくても、そろそろこれが来るんじゃないかと思うことをいち早く始める、そしてそれをやり続けることで結果は出しやすくなるのです。
また違う事例を見てみましょう。
2000年代に入り、日本だけではなく韓国の音楽業界も、「なかなかCDが売れない」という悩みを抱えていました。ただし、韓国は時代の変化に気づき、世界的基準でどの国よりも早かったのが「デジタル音楽市場」を作り上げたことです。
韓国の大手通信サービスSK Telecomが2004年11月にMelonという音源ストリーミング配信サービスを始めました(注9)。アメリカのAppleがiTunes Storeを始めたのが2003年4月で、グローバルデジタル音源市場を主導し始めたのが2007年頃であるため、非常に早かったことがわかります。
※注9:今は韓国の大手インターネットサービス会社である、kakao(カカオ)の傘下。
いち早く変化に気づき、新しい市場を作り上げた行動力はその後も大きな強みとなり、20年ほど経った今も、韓国デジタル音楽市場での「韓国国内企業のシェア」は圧倒的です。2021年5月時点では、韓国国内の音源ストリーミング市場のシェア率の1位はMelon(31.4%)で、2位も国内企業のGENIE MUSIC(18.54%)です。
その次がYouTube Music(13.27%)、FLO(10.95%)、Naver VIBE(3.67%)、Bugs(2.15%)、Spotify(1.04%)と続きますが、YouTube MusicやSpotifyなどグローバル企業の韓国進出でも揺るがないほど、韓国国内企業の音源ストリーミングサービスは圧倒的に強いです。
これはほかの国と比べると異例な現象であり、世界規模の音源ストリーミングサービスが韓国に進出してきても10年、15年前から使い続けてきた根強いユーザーを握っているMelonやGENIE MUSICにはなかなか勝てないものです。