最新記事

ドラマ

自堕落で自意識が高く、愛に飢えた高校生たち...その悩みに「大人」も共感できるわけ

Love and Loss Never Go Away

2022年2月18日(金)17時11分
エリン・マンツ
『ユーフォリア』

薬物依存症のルー(左)を中心にドラマはいじめや性に悩む10代を描く EDDY CHEN/HBOーSLATE

<麻薬やセックスに溺れ、SNSで愛と友情を求める今どきの高校生たちを描いた群像劇──。ドラマ『ユーフォリア』に、大人たちまでもが夢中になる理由>

『セックス・アンド・ザ・シティ』(SATC)が帰ってくると聞いたときは、それはもう興奮した。

私は40~50代(いわゆるX世代だ)の女性に向けて発信している51歳のカルチャー系ブロガー。私のような中年女が対象のドラマには、「待ってました!」と言いたくなる。

「私のような」は言いすぎかもしれない。ドラマ『SATC』の主人公キャリーのようにマノロ・ブラニクの靴やフェンディのバッグでクローゼットをぱんぱんにできる人間は、そう大勢はいない。

それでも続編にはきっと自分を重ねられる。中年ならではの悩みと格闘する登場人物に共感できる。そう思うと、成熟したヒロインたちとの再会が楽しみでならなかった。

期待に胸を高鳴らせポップコーンの大皿を抱えて、私は『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』(U-NEXTで配信中)を見た。

するとキャリーと仲間たちは確かに悩んでいたが、その悩みは世間の中年とはずいぶんズレていた。新しい友達はどんな性格なのか、LGBTQの人称は何を使えばいいのか、平日にカクテルを飲むなら何杯までが適量なのか。そんな話に主要キャラクターの死を盛り込めば、中年向けドラマは完成だとでも思っているのか。

やめた。中年向けのドラマなんて、やっぱり見たくない。私は『新章』を見限り、『ユーフォリア/EUPHORIA』(U-NEXTで配信中)に乗り換えた。

中年の私がティーンドラマに夢中に

動画配信サービスHBO Maxのウェブサイトによれば、こちらは「麻薬、セックス、心の傷とソーシャルメディアの世界で愛と友情を求める高校生」の群像劇。だがそれだけでは説明が足りない。

『ユーフォリア』は胸の内を赤裸々にぶちまけ、万事に過敏に反応し、薬物やアルコールを燃料に怒りをたぎらせ、絶え間なく自分を意識し、容赦なく自分に批判的な今どきの10代をめぐる痛ましくも不穏な考察だ。

キャラクターたちは過剰な刺激にさらされ、頭はセックスのことでいっぱい。有頂天だったかと思うと、次の瞬間にはスマホに届いたメッセージ1つでどん底に落ちる。

そんなドラマに私はハマった。同世代向けの『新章』を捨て、対象の視聴者が何十歳も下のティーンドラマに夢中になったのはなぜなのか。

『ユーフォリア』に登場するZ世代の高校生はとにかく行動がぶっ飛んでいて、感情に振り回される。衝撃、羨望、共感、嫌悪、希望、不信感、理解。そして見ている私も彼らの心の動きを共有し、連帯感すら抱く。

友人を連想させるキャラクターは出てこないし、X世代の私が高校生だった頃はあんなふうに自分をさらけ出さなかった。なのに「分かる分かる」とうなずいてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中