「藝大からマンガ家」の『ブルーピリオド』作者と「絵で食べていく」完売画家が語った美術業界の今

2021年12月28日(火)11時30分
朴順梨(ライター)

nakajima_yamaguchi_20211228-5.jpg

中島健太氏の「ベーグルとマフィンと睡眠を-3℃で割った場所」F100号、2009年

山口 それは一点ものを買うという従来のスタイルと同時に存在すると思います? どちらかになっていくと思います?

中島 もちろん、両方存続していくと思います。ただ投機という意味ではNFTアートの可能性はやはり大きい。例えば、ピカソの作品を買っても、リセールに出す(転売する)のはすごく大変です。でもNFTではそれが瞬時に可能になる。NFTでは真贋鑑定がしやすいうえに、世界中に同時に接続できるので、投機にはとても向いています。

山口 システムでアートが変わっていくのは普通にあり得るから、興味深いですね。

中島 コレクターが変われば作品の評価が変わるのが常なので、今はアート界が猛烈に揺さぶられている。今までとは全く違ったオルタナティブな市場が育ちつつあるなかで、『ブルーピリオド』の世界で主人公の八虎はどんな選択をしていくのか、すごく気になります(笑)。

美大というブラックボックスの透明化がもたらすもの

山口 誤解を恐れずに言えば、今までは藝大が率先して受験の評価や、美大の内実をブラックボックス化してきたことで、既存の価値や評価や権威が維持されてきたわけじゃないですか。でも、例えば昔は焼肉って一部の人しか食べられなかったけれど、今は激安店が増えて誰もがおいしく食べられるようになった。

美術業界でも、限られた人しか到達できなかった技術やステータスにみんながアクセスできるようになったら、どうなっちゃうんだろうって思います。

中島 美術業界も変わっていないところは変わってないし、変わっているところは変わってきているので、山口さんはいろいろと頭を抱えながら『ブルーピリオド』を描いていると思う。だってどう描いても、美術業界から批判もされるじゃないですか。

山口 途中で「東京G大」とかになったら察してください(笑)。

中島 僕は『ブルーピリオド』は素晴らしいアート作品だと思いますし、社会に与えた影響は大きい。そしてこれからもっと大きくなっていく。

アート作品の価値って、社会に影響を与えた大きさが重要だと思っているので、『ブルーピリオド』は間違いなく現代日本を代表するアートだと思っています。そのことは率直に羨ましいですし、僕も頑張らなければと......。

山口 謙遜で言っていると思いますけど、現象のサイズが大きいものが一番いいとは限らないですよ。だって私自身に大きな影響を与えたのは、個人が発行する同人誌だったり友達が描いたものだったりしますから。

中島 それはめちゃくちゃ心強いコメントです。ちなみに、マンガが大ヒットしたことで作品づくりに変化はありましたか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:低迷するドイツ、総選挙で「債務ブレーキ」に転

ワールド

英国、次期駐中国大使に元首相首席秘書官が内定 父は

ビジネス

独総合PMI、2月は9カ月ぶり高水準 製造業が3カ

ビジネス

仏サービス部門PMI、2月は44.5 17か月ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中