「藝大からマンガ家」の『ブルーピリオド』作者と「絵で食べていく」完売画家が語った美術業界の今
山口つばさはなぜ自身の価値観を語らないのか
中島 ひとつ聞きたかったんですが、以前、山口さんに「ARTIST NEW GATE」の審査員をお願いしたとき、付き合いがあるから受けてくれると思ってたら、ばっさり断られたじゃないですか(笑)。山口さんは徹底して「自身のアートに対する価値観」を世に出すことをしていないですよね。それはなぜなんですか?
山口 『ブルーピリオド』には、いろいろなキャラがいていろいろな思想があって、それこそ村社会の閉塞感ではなく、「いろんな人がいるよね」というのを描けたらいいなと思っています。
だから作者が自分の価値観を主張するとバイアスがかかってしまうし、マンガに影響力があるのは理解しているので、プロパガンダ的な描き方をしたくないんです。
中島 名画の条件のひとつに「作者が多くを語らず残された謎が多い」というものがありますが、似ているかもしれませんね。
世間的には画家もマンガ家もそう違わないと思われているかもしれませんが、画家は自分の感情にだけピュアであればいい。けれど、マンガはキャラクターの思考と自分の思考を切り分けないとならないですよね。自分の考えと違う多様な人間と向き合うことができる能力を、山口さんは持っているんですね。
山口 作者は抜きに、あくまで作品と読者の関係性であってほしいというのがあるので。マンガやアートについて、語るのはいいけど、人の作品を「評価する」審査員を今やるのは違うんじゃないかと思っているんです。だからマンガ賞の審査員も断っています。まだ1作しか描いていないのに、いろいろ言うのは違う、時期尚早かなと。
中島 でもいつかは「ARTIST NEW GATE」の審査員やってくださいね(笑)。
山口(笑)
NFTアートはオルタナティブなマーケットになり得るか
中島 ブロックチェーンを用いたデジタルアートの「NFTアート」が話題ですが、山口さんはどう思いますか?(編集部注:データ管理にブロックチェーン技術を組み合わせることで、改竄ができないアート作品になるとされている)
山口 まだあまり詳しくありませんが、今の動向を見ていると、投機的というか、資産になるんじゃないかという変なバズり方をしている気がします。
中島 僕は仮想通貨がそうであるように、NFTもさらに成長していくだろうという確信を持っています。でも今は黎明期というか、確立されていないジャンルなので詐欺行為の温床になっているのも事実。
あるアーティストが自分の作品として売り出したものが高値で落札されたのですが、「これは自分が描いたのではなく、適当な誰かに描かせたものだ」と暴露したんです。NFTは制作された数と複製が不可能ということは証明できても、誰が作ったものかまでは証明できないので、詐欺行為が起きているのも事実です。
でも今後はメタバース(仮想空間)が一層発展するだろうし、そうなるとどんどん新しいアイテムが生まれて「この空間上に10個しか存在しない限定モデルが欲しい」という発想が当たり前になってくる。