最新記事

ステージ

年末定番の「くるみ割り人形」はなぜ最も愛されるバレエになったか

2021年12月25日(土)16時00分
ニューヨーク・シティ・バレエ団の「くるみ割り人形」

舞台関係者は今もコロナ禍にあって苦闘を続けているがバレエの世界は、このクリスマスシーズンに至って、ようやく成功確実なヒット作の上演を再開することができる。そう、「くるみ割り人形」だ。写真はニューヨーク・シティ・バレエ団の「くるみ割り人形」  CMajorEntertainment / YouTube

舞台芸術関係者は、公演の中止や劇場の閉鎖、コストのかさむ感染予防措置といった暗雲の陰からスポットライトの中へ戻るべく、今も苦闘を続けている。だがバレエの世界は、このクリスマスシーズンに至って、ようやく成功確実なヒット作の上演を再開することができる。そう、「くるみ割り人形」だ。

この時期に欠かせない同作品は、年間で上演される他の作品すべての合計とほぼ同じ数の観客を集め、年間のチケット収入に占める比率も非常に大きい。世界有数のバレエ団の1つであるニューヨーク・シティ・バレエ団(NYCB)では、ほぼ5週間にわたって上演される「くるみ割り人形」が年間のチケット売り上げの約45%を稼ぎ出す。

これだけの規模で集客を行うことは、他の舞台芸術と同様に新型コロナウイルスによるパンデミックのために通常の収益機会をほぼすべて奪われてしまったバレエ業界にとっては不可欠だ。非営利団体「アメリカンズ・フォー・ジ・アーツ」では、米国における非営利の芸術文化団体がパンデミックで失った収益は、2021年7月の時点で推定180億ドル(約2兆円)に及ぶとみている。

「パンデミックのせいで、舞台芸術は壊滅状態にある」と語るのは、ダンス/USAでエグゼクティブ・ディレクターを務めるケリー・エデュセイ氏。「特にダンス分野では、運営予算がバッサリ削られてしまった」

コロナはバレエ団と劇場周辺にも打撃に

ダンス/USAがアンケート調査を行ったダンスカンパニーの過半数は、前年に比べてチケット収入が減少したと報告しており、44のカンパニーの平均では74%の減収になったとされている。バーチャル公演は3倍以上に増えた。2020年の冬、プロのバレエ団のほとんどは、この季節に「くるみ割り人形」を上演するという長年の伝統を回避し、代わりに過去の「くるみ割り人形」の録画をストリーミング配信した。

多くの公演が中止されたことは、劇場周辺の地域経済にも影響を与えた。

「こうした毎年恒例の公演があるということはニューヨーク市にとって非常に重要だ。観光客をこの街に呼び込み、近隣州の住民も訪れるから」と語るのは、NYCBで芸術監督を務めるジョナサン・スタッフォード氏。「ホテルやレストラン、タクシー運転手にとっても重要だ。『くるみ割り人形』でこの街は息を吹き返す」

シカゴに住む前出のエデュセイ氏は「ダウンタウン(繁華街)とは何だろうか」と問いかける。「どうして観光客はこの街に来るのか。博物館があり、ダンス・パフォーマンスがこの街のあちこちで繰り広げられるからだ。芸術・文化セクターこそダウンタウンそのものだ。大都市の多くでは芸術と文化が観光の原動力になっている」

パンデミックのあいだ、ダンス/USAは他の非営利芸術団体と協力し、パンデミック期間中に導入された財政支援の対象に芸術が含まれるよう働きかけた。「Save Our Stages Act(舞台芸術救済法)」は2020年12月に成立し、舞台芸術セクターに150億ドル(約1兆7000億円)の支援が行われた。

「芸術は無くてはならぬものであり、地域社会において、舞台芸術が経済の原動力として活気をもたらしていることを議員たちも理解していると思う」とエデュセイ氏は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中