スタイル抜群のあの女がこの家を乗っ取ろうとしている──認知症当事者の思い
■私は幼稚園児ではない
デイが増えれば、私もお父さんに付き添って行かねばならない。デイでは、誰もが私を心配そうに見る。大きな声で、まるで幼稚園児にでも話しかけるように、ゆっくりと話す。私は付き添いですよ? まったく馬鹿にしている。哀れな生きものでも見るような目で私を見るのが、腹立たしくてたまらない。私を誰だと思っているのか。朝っぱらから童謡を歌って喜ぶようなばあさんに見えるのだろうか? 手遊びだって? 馬鹿にするな。
週に二回通っているデイが、悪い場所だとは思っていない。デイとは、例の長瀬さんが紹介してくれた、老人のためのジムだ。後期高齢者といえども、体を動かすのは大切なのだとあなたは力説した。
「お母さんは大勢で歌ったり、ゲームをしたりするのが苦手だということだったから、長瀬さんにエクササイズができるところがないか探していただいたんですよ。『デイサービスココロにじゅうまる』さん、スポーツジムみたいで最高でしょ? 職員さんだってみんな優しいじゃないですか! まさに『にじゅうまる』ですよ、アハハ!!」
そりゃ確かに、私だって楽しく行っていますよ。いくつになってもきれいでいたいから。とはいえ、私はお父さんの付き添いで行っているつもりです。だって私は健康ですから。年ばかりとりましたが、病気ひとつしたことがありません。確かに最近もの忘れは酷くなりましたけれど、主治医の先生は年齢相応だと言ってくれています。
お父さんが軽い認知症なのは、悲しいことです。
去年の夏のとても暑い日に、脳梗塞で倒れました。そして長い間、遠くの病院に入院しました。その後遺症で、少し......。
でもね、最近はずいぶん元気になってくれたでしょう? 息子もあなたも、これからは週に二回、デイという場所で運動をして、健康に暮らしましょうって、言ってくれたじゃないですか。
家にばかりいたらよくありません。寝てばかりではいけません。弱ってしまった体を鍛えてくれるデイは、素晴らしい場所なんです。お父さんとお母さんを元気にしてくれるんです。
ケアマネの長瀬さんまでそう言った。何度も、何度も。
ええ、わかりました。わかりましたってば。
そんなに何度も言わないで。責められているようでつらくなってしまう。