1980年12月8日、ジョン・レノンが「神」になった日【没後40周年特集より】
ところが、チャップマンは「僕なら待つけどな」と真顔で言った。「だって、もう二度と会えないかもしれないから」レノン夫妻は10時半までスタジオに詰めていた。そして10時50分、夫妻を乗せたリムジンがダコタハウスの72丁目側の入り口前に止まったヨーコが先に降り、ジョンが続いた。中庭に続くアーチに差し掛かったときジョンは後ろから声を掛けられた。
「ミスター・レノン!」。振り返ると、チャップマンが両手で拳銃を握って立っていた。1・5メートルの至近距離。チャップマンは発砲し、ジョンの背中と肩に4発の銃弾を撃ち込んだ。ジョンはよろめきながら6歩進み、ドアマンのオフィスで倒れた。ヨーコはジョンの頭を抱きかかえた。チャップマンは拳銃を捨てた。
ドアマンが「自分が何をやったか、分かっているのか?」と聞くと、チャップマンは「ジョン・レノンを撃った」と落ち着いて答えた。ドアマンの通報で、警察は数分後に到着した。チャップマンは逃げようともせず、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいた。
「パパは神の一部になった」
意識半ばで大量に出血していたジョンは、パトカーの後部座席に乗せられた。警官のジェームズ・モランは「自分が誰だか分かるか?」と問い掛けたが、ジョンは話すことができなかった。「うめき声を上げながら、分かると言わんばかりにうなずいた」。モランのパトカーを追うように、ヨーコを乗せたもう1台のパトカーが15ブロック離れたルーズベルト病院へ向かった。
ジョンは病院に搬送されたが、既に全身の血液の80%を失っており、手の施しようがなかった。30分後に死亡が宣告されたが、ヨーコは信じられなかった。「私の夫はどこにいるの?」と聞く彼女に、担当医のスティーブン・リンは深呼吸してから言った。「とても悪い知らせがある。最善を尽くしたが、あなたの夫は亡くなった。苦しむことはなかった」。ヨーコはその言葉を理解することを拒んだ。「どういうこと? 彼は眠っているの?」。そう言って、すすり泣いた。