NEWS・加藤シゲアキが愛する『ライ麦畑』と希望をもらった『火花』
本誌「人生を変えた55冊」特集(2020年8月11日/18日号)表紙
<自分はジャニーズでありながら本を書いて、時々「それでいいのかな」と考えたりするんです――そんな彼に『火花』は希望をくれた。小説を読む感動の原体験、「結局、好き」な1冊......。加藤シゲアキの価値観を揺さぶった5冊を紹介する。本誌「人生を変えた55冊」特集より>
僕にとっての人生の一冊、小説を読む感動の原体験となっているのが『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(J・D・サリンジャー、『ライ麦畑でつかまえて』の邦題もあり)。そこで描かれているのが自分のことのように感じられ、共感し、とにかく没入してしまった。高校生の主人公ホールデンと同じ10代の終わり頃に読んだのも大きいかもしれない。彼のほうが少し年下ですが、当時は自分も社会との関係に息詰まる......じゃないですけど、悩んでいて。
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
J・D・サリンジャー[著]
邦訳/白水社
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
ホールデンはわがままでひねくれているわりには、真っすぐな愛情もある。そういうバランスに共鳴したんでしょうね。村上春樹さんの翻訳版だったので、リズムや文体の読みやすさもあったかなあと思う。
それまで海外文学を読んでいなかったわけではないが、全く違う文化の中にいてもこんなに共鳴することがあるんだ、と衝撃を受けたという意味で、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は確実に僕の人生に影響を与えた。ニューヨークに行って作品に出てくる場所を巡ったりもしたし、単行本と文庫と英語のペーパーバック......というように何冊も持っている。訳語がどうなっているんだろうと確認したりするほど、はまった。
あまりにポピュラーですが、作家として似たようなものを書こうとすら思わないほど特別な一冊です。
2冊目は、又吉直樹さんの『火花』。僕の小説デビュー作(『ピンクとグレー』)は芸能界の話で、又吉さんもお笑い芸人の話を書かれている。これを読んだとき、僕はもう何作か書いていて、この先何を書いていくべきだろうと考えていたんですけど、やっぱりその人しか知らない世界を書くことの強さ、そのリアリティーは作品に対して誠実だなと、改めて思った。
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
自分はジャニーズでありながら本を書いて、時々「それでいいのかな」と考えたりするんです。「いっちょかみ」している感じに映るのではないだろうか、と。でも、そんな自分にしか書けないものがあると、『火花』はある意味で希望をくれた。今年のアカデミー賞を受賞(作品賞、監督賞ほか)したポン・ジュノ監督ではないですが、「最も個人的なことが最もクリエーティブだ」と思えた。
もちろん作品としても面白くて、芥川賞を取り、今の人に届く文学性と同時にエンターテインメント性もある。コンビの話でもあるので、僕としてはいろんな意味で感情移入しやすかった。