最新記事

人生を変えた55冊

日本初のアフリカ人学長が「価値観」を揺さぶられた5冊の本

2020年8月12日(水)16時25分
ウスビ・サコ(京都精華大学学長)

南アフリカの英雄ネルソン・マンデラは、マリでもさまざまな場面に顔を出す。アパルトヘイト(人種隔離政策)時代には、自由を歌うポピュラー音楽に彼の名前がよく登場したものだ。だが私は、なぜマンデラが静かに忍耐を重ねて刑務所に居続けたのか、彼の神髄には目を向けず、ただレゲエに乗せたマンデラの歌を口ずさみ、「フリー、マンデラ!」と叫んでいた。

彼の闘いの本質に気付かせてくれたのは、『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』だ。この本の前後に出合ったガンジーの本と併せて印象に残ったのは、相手を責めるのではなく自制することの大切さ。若者は「戦えばいい」という熱い心で動きがちだが、静かに抗議することが最も強いメッセージを発すると思うようになった。私自身、大学時代に小さな学生運動を経験した。何かを求める際は何かを破壊すればいいと考える学生が多く、自制することに意義を見いだす人はいなかった。


『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』
 ネルソン・マンデラ[著]
 邦訳/明石書店

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

私も、自立したい、自由になりたいと思うことは多かった。それを実現させるには知識を得て能力を高め、自分の選択肢を増やすべきだと信じていた。だが、果たしてそれで本当に自由になったか。気付いたのは、自分の意識の中にある自由の大切さで、その意識をどう持つか、持ち続けるかということだった。

(構成・前川祐補)

<2020年8月11日/18日号「人生を変えた55冊」特集より>

【話題の記事】
コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?
日本人の「集団主義」「同調圧力」には良い面も悪い面もある

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中