日本初のアフリカ人学長が「価値観」を揺さぶられた5冊の本
COURTESY OF KYOTO SEIKA UNIVERSITY
<マリ出身の京都精華大学学長ウスビ・サコが、影響を受けた5冊を紹介。その1冊は西洋文化の優位性を再考させられた『オリエンタリズム』だが、実は日本も西洋からほかの文化を見下していることに気付いたという。本誌「人生を変えた55冊」特集より>
私たちは学校に通いだすと、価値観を「置き換える」癖が生まれがちだ。私の出身国のマリでも、土着文化は古くさく、西洋文化は新しくて合理的でかっこいい、となっていく。その置き換えられた価値観を取り戻してくれたのが、アマドゥ・ハンパテ・バーの『アフリカのいのち――大地と人間の記憶/あるプール人の自叙伝』だった。
『アフリカのいのち──大地と人間の記憶/あるプール人の自叙伝』
アマドゥ・ハンパテ・バー[著]
邦訳/新評論
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これは西洋文化とマリ文化の比較、特にフラニ族(プール族)の文化などマリ文化の価値を中心に書かれたもので、著者のハンパテ・バーはフランス植民地時代と解放後の両時代のマリを生きた人物だ。
自国や自民族の文化に対する価値観に壁が立ちはだかるのは、外国の社会とその現実に身を置いたとき。課題図書として読んだ高校時代はよく分からなかったが、外国で読み直したときにこの本の価値が見えてきた。日常にありながら気付かなかった自国文化の大切さや、合理性に隠れて見えなくなっていた自然に関する価値観など示唆に富む。
自国文化の重要性を学ぶことは、外国文化を理解する上でも非常に役に立つ。その土地の文化や国の価値観がどこにあるのかを見つけるすべも、この作品から学んだ――。
ハンナ・アレントの『人間の条件』は学生にも薦めている一冊だが、最後まで読まない人も多い(苦笑)。実際、ちょっと面倒くさい本だ。最初は人間である条件などあるのか、そんなものが必要なのかと疑問に思ったが、期せずして専門書以外で自身の研究に役立つ一冊になった。
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私の研究分野の1つは社会と建築空間の関係性や居住空間などの領域論。この本は、人間を考察するときには専門書で学ぶ以上に広い見地から見る必要があることを教えてくれた。人間単独ではなく、人が社会で受ける影響をどう考えるべきかという視点を持つきっかけになった。
「西洋優位」を考え直す
領域論では私的領域や公的領域などを議論する。かつて、人々は公共領域に対する姿勢が良かった。公園に行くときでも正装するなど、家の外と中を区別していた。外に対するリスペクトだが、ある時期からこの姿勢が崩れて公共領域は私的領域の延長と考えるようになり、パジャマ姿で外出してもいいんだとなった。こうした人間行動の変容は、専門書だけでは説明がつかないことも多い――。