韓国にパンブーム到来、ソウルの「日本のパン屋」に突撃取材した
VISITING JAPANESE-STYLE BAKERIES IN SEOUL
青い鳥から約2.5キロ離れた孔徳地区にある「匠や」では、生食パン1種のみを扱っている。値段は2斤9000ウォン(約840円)で、日本の高級生食パンとほぼ同じだ。
オーナーの金淵勲(キム・ヨンフン)は高校から社会人になるまで、現代建設に勤める父親の都合で日本に住んでいた。東京韓国学校から上智大学に進学した彼が当時ハマっていたのは、ラーメンの食べ歩きだ。
「ちょうどとんこつブームの頃で、友達と『とんこつ友の会』を作っていた。環七(環状七号線)沿いのラーメン店を巡っているうちに、料理が好きになって」
卒業後は日本で就職したものの、2000年に兵役のため帰国。徴兵特例制度により、国が指定する企業で働く代替服務者となった。そこで現在彼が「メンター」と呼ぶ、株主の日本人男性と出会い、日本への関心をさらに深めていく。2004年に退社し、ソウル市内にとんこつラーメン店の「博多文庫」を開いた。
その頃は韓国に、とんこつラーメンの店がほぼなかったことが理由だ。生食パン店を始めたのも「日本でヒットしている生食パンが、韓国にもあったら」と思ったから。
2018年11 月にオープンした「匠や」の店内には、食パンだけが並んでいる。個別包装して飾られているスライスパンは、文具やシャツのようにも見える。程なくして、近所に住んでいるというヤン・ジョハが、5歳になる娘のイアンを連れてやって来た。
「会社の仲間が差し入れてくれたのがきっかけで、好きになった。柔らかくて新鮮なので、トーストせずそのまま食べるのが定番だ」
20代の頃は日本の豊田通商に勤務していたというヤンとは、日本語で会話をした。父親のそんな様子をイアンは、不思議そうに見つめていた。
日韓悪化で売り上げ減
青い鳥も匠やも、それぞれに固定客をつかんでいることが分かる。しかしいずれも2019年夏以降、苦しい思いをしていると告白した。
金は自身の店が韓国企業であることと、日本と関係は深いが正しい歴史認識を持っているということを示すため、日本軍慰安婦被害者支援団体に寄付していると店内に明記している。それが顧客への誠意だと考えているからだ。しかしそれは、日本と韓国が親しくしていくことを願う気持ちの表れでもあるという。
「日本にお世話になってきたし、日本人のお客さんもいる。おいしいものは世界共通だから、日本人が好きなものは韓国人も好きなはず。分かってもらえる日まで、よいと思うものを作り続けていくだけ」