横浜の和菓子店、上生菓子に一目ぼれした中国人店主の「おんがえし」
RIKA USAMI-NEWSWEEK JAPAN
<横浜市鶴見区に「菓心 雪梅庵」という和菓子店がある。店主は2009年に来日し、修業を重ねてきた四川省出身の熊雪梅。だが彼女が自分の店を開くまでには大きなハードルがあった。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集より>
店内には美しく繊細な上生菓子だけでなく、キャラクターが描かれたパッケージや、面白いネーミングの和菓子、子供が好きそうなポップな色合いの和菓子まで多種多様な商品が並ぶ。「親しみやすくしたくて」と店主の熊雪梅(ゆう・せつばい、37歳)は言う。
四川省出身の熊が横浜市鶴見区に「菓心(かしん) 雪梅庵(ゆきうめあん)」を開いたのは2018年10月のこと。日本へ来ることを決めたのは「上生菓子を初めて見た瞬間だった」というから、和菓子への情熱は人一倍強い。
「昔は中国で事務員として働いていたけれど、あるとき日本人のお客さんが上生菓子をお土産に持ってきた。一目で美しさに心を奪われ、こんなものを自分も作れるようになりたいと、その場で仕事を辞める決心をした」
それから2年間、貯金をしながら日本語を学び、和菓子について下調べを進めた。来日したのは2009年。まず日本語を学ぶため、横浜市内の語学学校に入った。
2年間通うつもりだったが、1年で日本語検定1級に合格。卒業を促され、翌年に製菓専門学校へ入学した。そこでも優秀な成績を収め、奨学金を取得。学校のコンクールで賞を取ったこともある。
どんなに優秀であっても、和菓子業界への就職となると外国人というだけでハードルが高くなる。
「就労ビザが下りないので、面接で断られる。何社も落ちて、ようやく中国進出を予定していた横浜の老舗和菓子店に就職できた」
そこで4年間修業を積んでから、同業他社に転職。さらに和菓子にのめり込んでいった熊は、勉強会で出会った職人や製菓会社の社長のつてを頼り、修業の旅に出た。沖縄、静岡、名古屋、大阪、千葉......6軒の和菓子店に3日間ずつ泊まり込み、職人たちに教えを請うた。