ナイトテンポ、「昭和歌謡」で世界をグルーヴする韓国人DJの軌跡
会場を沸き立たせる一方、観客とのやり取りでは笑いも忘れない HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN
<日本発の音楽ジャンル「シティポップ」が海外でブームになり、日本の若者たちにも伝播している。その中心にいるのが33歳のNight Tempo。彼はなぜ、80~90年代の日本の音楽を活動のメインにするのか。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集より>
東京・渋谷のクラブ「Womb」。2019年12月、「北酒場」や「嵐の素顔」などの懐メロに熱狂して体を揺すっているのは、ヒット当時を知らない若い客たちだ。
この一見すると不思議な状況を生み出しているのは33歳の韓国人DJ、ナイトテンポ(Night Tempo)だ。昨年末、彼はアイドル歌謡からニューミュージック、演歌まで、80~90年代の日本の「昭和歌謡」を踊りやすくリエディット(再編集)してプレイする「ザ・昭和グルーヴ・ツアー」のライブを日本の各都市で開催した。
なぜ若者が親世代の曲で踊るのか。なぜ自身も若い韓国のDJが、昭和歌謡メインに活動するのか。これらの謎は、2019年に本格的に日本で活動を開始するや否や現在まで続く躍進を見せてきたナイトテンポの軌跡を追うことで見えてくる。
「日本でもよくあるじゃないですか。洋楽の歌詞が分からなくても、これ好き、みたいな。それと一緒」
日本の音楽との出合いを、ナイトテンポは流暢な日本語でそう説明する。きっかけは、仕事の出張で頻繁に日本を訪れていた父親が買って帰ってきた懐メロCDのお土産だったという。
当時は日本語が分からなかったが、お土産の中にはWinkや中山美穂などがあり、その「時代の雰囲気、音の『色』、イメージ」に魅了された。彼が9~10歳頃の話だ。
やがて成長すると、ネットを通じて同じ「色」の音楽を漁るようになる。中山美穂の「CATCH ME」の作編曲者として知った角松敏生は、最も敬愛し目標とする音楽家になった。昭和を感じる書籍やアニメグッズなどを大量に買い集め始めたのもこの頃だ。
ライブ時の衣装はレトロ風ファッション、決めポーズはアニメ『セーラームーン』にインスパイアされたもの、という現在のナイトテンポの素地がこうして出来上がった。
時代を丸ごとキュレーション
趣味として昭和歌謡に独自の加工を施した音源をネットに公開するようになったのは、6年ほど前からだという。ネット発の音楽ジャンルである「フューチャーファンク」の作り手として、界隈では名の知られた存在になった。
その頃公開した曲の1つが、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」だ。これがYouTubeで約1000万回再生される特大ヒットになり、欧米やアジアで日本発の音楽ジャンルであるシティポップが注目されるきっかけの1つとなった。
今や山下達郎や大貫妙子などのレコードを求めて海外から日本各地のレコードショップに観光客が訪ねてくるほど、シティポップは一大ブームになっている。