最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】

ナイトテンポ、「昭和歌謡」で世界をグルーヴする韓国人DJの軌跡

2020年2月7日(金)20時05分
澤田知洋(本誌記者)

magSR20200207korean-nighttempo-5.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

大阪のrare groove recordsの店長、佐藤憲男によれば、こうした海外ファンが自身の店に姿を見せるようになったのは5~6年前からで、地域別の人数比はおおよそアメリカが4割、ヨーロッパが2割、オーストラリア2割、アジアが2割。ネットで買えない音源を求めて実店舗に来るのだという。

需要の多さを見込んで、昨年はアメリカのロサンゼルスなどで4回、期間限定のレコード店を開き、いずれも盛況だった。「12年店をやっていて、今回ほど大きい(日本発の)ブームの経験はない」と佐藤は振り返る。SNSの投稿をのぞくと、アメリカの各地でシティポップ関連のイベントが頻繁に開かれているのも確認できる。

シティポップの盛り上がりを受け、ナイトテンポもアメリカや中国など複数の国でライブを開催した。昭和歌謡だけを流す構成ながら数百人から1000人以上を集める盛り上がりで、特にプラスティック・ラブはどこの国でも踊りつつの大合唱になるという。

magSR20200207korean-nighttempo-6b.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

その興奮は日本人にも伝播している。そして、海外発の日本ブームを背景にナイトテンポが日本でも活躍するという一種の転倒を生み出した。昭和がファッション、トレンドとして一般の層に広がり始めたのも若者ファンが多い理由だとナイトテンポはみる。

2017年末に音楽活動に専念するためプログラマーとして勤めていた会社を辞め、昨年夏には日本最大級のロックフェス、フジロックに出演。これまでに日本のレコード会社から、杏里などのヒット曲をリエディットした作品を3度にわたり発売した。

2月は第4弾としてBaBeのリエディット作品のリリースも控えている。昨年は昭和歌謡をモチーフに自作音源で構成されたオリジナルアルバム『夜韻』も発表した。

magSR20200207korean-nighttempo-7.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

いずれはオリジナル一本でいきたいかという質問にも、ナイトテンポは「昭和歌謡は続けたい」と即答する。昭和歌謡のリエディットとオリジナル作品の両輪で、自分のフィルターを通した「架空の昭和時代」を表現したいのだ、と。

往年の人気歌手ともいずれ一緒に仕事ができたら、とはにかみつつ、ゆくゆくは「音楽だけでなく昭和文化も紹介するキュレーターとして活躍したい」という野望ものぞかせる。

「今回のツアーはそのイントロみたいなものです」

そのためにも日本滞在中は昭和グッズ収集に余念がない。「裏・昭和グルーヴ・ツアーです」。買い出しをそう表現しニヤリと笑うと、彼は夜の東京にそそくさと消えていった。

magSR20200207korean-nighttempo-8.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

※この記事は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集掲載の記事「『昭和』で世界をグルーヴ 懐メロを更新するDJ」の拡大版です。詳しくは本誌をご覧ください。

「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」より
「韓国人」とひとくくりにする人たちへ──日本との縁を育んできた韓国人たちの物語
ソウルで日本人客をおもてなし 「小川剛(長渕剛+小川英二)」の語った原点
「短歌は好きのレベルを超えている」韓国人の歌人カン・ハンナは言った

20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

【参考記事】「中国人」とひとくくりにする人たちへ──日本との縁を育んできた中国人たちの物語

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中