ナイトテンポ、「昭和歌謡」で世界をグルーヴする韓国人DJの軌跡
大阪のrare groove recordsの店長、佐藤憲男によれば、こうした海外ファンが自身の店に姿を見せるようになったのは5~6年前からで、地域別の人数比はおおよそアメリカが4割、ヨーロッパが2割、オーストラリア2割、アジアが2割。ネットで買えない音源を求めて実店舗に来るのだという。
需要の多さを見込んで、昨年はアメリカのロサンゼルスなどで4回、期間限定のレコード店を開き、いずれも盛況だった。「12年店をやっていて、今回ほど大きい(日本発の)ブームの経験はない」と佐藤は振り返る。SNSの投稿をのぞくと、アメリカの各地でシティポップ関連のイベントが頻繁に開かれているのも確認できる。
シティポップの盛り上がりを受け、ナイトテンポもアメリカや中国など複数の国でライブを開催した。昭和歌謡だけを流す構成ながら数百人から1000人以上を集める盛り上がりで、特にプラスティック・ラブはどこの国でも踊りつつの大合唱になるという。
その興奮は日本人にも伝播している。そして、海外発の日本ブームを背景にナイトテンポが日本でも活躍するという一種の転倒を生み出した。昭和がファッション、トレンドとして一般の層に広がり始めたのも若者ファンが多い理由だとナイトテンポはみる。
2017年末に音楽活動に専念するためプログラマーとして勤めていた会社を辞め、昨年夏には日本最大級のロックフェス、フジロックに出演。これまでに日本のレコード会社から、杏里などのヒット曲をリエディットした作品を3度にわたり発売した。
2月は第4弾としてBaBeのリエディット作品のリリースも控えている。昨年は昭和歌謡をモチーフに自作音源で構成されたオリジナルアルバム『夜韻』も発表した。
いずれはオリジナル一本でいきたいかという質問にも、ナイトテンポは「昭和歌謡は続けたい」と即答する。昭和歌謡のリエディットとオリジナル作品の両輪で、自分のフィルターを通した「架空の昭和時代」を表現したいのだ、と。
往年の人気歌手ともいずれ一緒に仕事ができたら、とはにかみつつ、ゆくゆくは「音楽だけでなく昭和文化も紹介するキュレーターとして活躍したい」という野望ものぞかせる。
「今回のツアーはそのイントロみたいなものです」
そのためにも日本滞在中は昭和グッズ収集に余念がない。「裏・昭和グルーヴ・ツアーです」。買い出しをそう表現しニヤリと笑うと、彼は夜の東京にそそくさと消えていった。
※この記事は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集掲載の記事「『昭和』で世界をグルーヴ 懐メロを更新するDJ」の拡大版です。詳しくは本誌をご覧ください。
「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」より
●「韓国人」とひとくくりにする人たちへ──日本との縁を育んできた韓国人たちの物語
●ソウルで日本人客をおもてなし 「小川剛(長渕剛+小川英二)」の語った原点
●「短歌は好きのレベルを超えている」韓国人の歌人カン・ハンナは言った
2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。
【参考記事】「中国人」とひとくくりにする人たちへ──日本との縁を育んできた中国人たちの物語
2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。