最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】

ナイトテンポ、「昭和歌謡」で世界をグルーヴする韓国人DJの軌跡

2020年2月7日(金)20時05分
澤田知洋(本誌記者)

会場を沸き立たせる一方、観客とのやり取りでは笑いも忘れない HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本発の音楽ジャンル「シティポップ」が海外でブームになり、日本の若者たちにも伝播している。その中心にいるのが33歳のNight Tempo。彼はなぜ、80~90年代の日本の音楽を活動のメインにするのか。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集より>

東京・渋谷のクラブ「Womb」。2019年12月、「北酒場」や「嵐の素顔」などの懐メロに熱狂して体を揺すっているのは、ヒット当時を知らない若い客たちだ。
20200211issue_cover200.jpg
この一見すると不思議な状況を生み出しているのは33歳の韓国人DJ、ナイトテンポ(Night Tempo)だ。昨年末、彼はアイドル歌謡からニューミュージック、演歌まで、80~90年代の日本の「昭和歌謡」を踊りやすくリエディット(再編集)してプレイする「ザ・昭和グルーヴ・ツアー」のライブを日本の各都市で開催した。

なぜ若者が親世代の曲で踊るのか。なぜ自身も若い韓国のDJが、昭和歌謡メインに活動するのか。これらの謎は、2019年に本格的に日本で活動を開始するや否や現在まで続く躍進を見せてきたナイトテンポの軌跡を追うことで見えてくる。

magSR20200207korean-nighttempo-2.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

「日本でもよくあるじゃないですか。洋楽の歌詞が分からなくても、これ好き、みたいな。それと一緒」

日本の音楽との出合いを、ナイトテンポは流暢な日本語でそう説明する。きっかけは、仕事の出張で頻繁に日本を訪れていた父親が買って帰ってきた懐メロCDのお土産だったという。

当時は日本語が分からなかったが、お土産の中にはWinkや中山美穂などがあり、その「時代の雰囲気、音の『色』、イメージ」に魅了された。彼が9~10歳頃の話だ。

magSR20200207korean-nighttempo-3.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

やがて成長すると、ネットを通じて同じ「色」の音楽を漁るようになる。中山美穂の「CATCH ME」の作編曲者として知った角松敏生は、最も敬愛し目標とする音楽家になった。昭和を感じる書籍やアニメグッズなどを大量に買い集め始めたのもこの頃だ。

ライブ時の衣装はレトロ風ファッション、決めポーズはアニメ『セーラームーン』にインスパイアされたもの、という現在のナイトテンポの素地がこうして出来上がった。

時代を丸ごとキュレーション

趣味として昭和歌謡に独自の加工を施した音源をネットに公開するようになったのは、6年ほど前からだという。ネット発の音楽ジャンルである「フューチャーファンク」の作り手として、界隈では名の知られた存在になった。

その頃公開した曲の1つが、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」だ。これがYouTubeで約1000万回再生される特大ヒットになり、欧米やアジアで日本発の音楽ジャンルであるシティポップが注目されるきっかけの1つとなった。

magSR20200207korean-nighttempo-4.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

今や山下達郎や大貫妙子などのレコードを求めて海外から日本各地のレコードショップに観光客が訪ねてくるほど、シティポップは一大ブームになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中