ラッパーECDの死後、妻の写真家・植本一子が綴った濃密な人間関係
石田さんが亡くなり、これまで以上に頑張らなくてはいけない場面が増えたが、私は一人で抱えようとするのをやめた。抱えきれずに取りこぼしてしまう前に、最初から誰かに預けてみる。今里さんや、野間さん夫婦をはじめ、周りにいる人たちみんなで娘たちを育てたいと思っている。それはこれまで以上に心強く、視界が開けるような気さえするのだ。(115ページ「二〇一八年 四月〜六月」より)
ハッと目を覚ますとあたりは真っ暗、子ども達もいつの間にか学校から帰って来ている。時刻は19時過ぎ、夕飯がどうやっても作れそうにない、というより起き上がれない。「野間さんに夕飯食べさせてくださいって伝えて......」と子ども達を野間さん家へ送り出す。バタッとまた眠ってしまったらしく、気づくと娘たちは帰って来ていた。夕飯はもりそばだったと言う。野間さんにお礼の連絡。娘たちの就寝と入れ替わりで起き上がり、風呂に入ってから原稿書き。今日こそ0時には寝て、時差ぼけを直したい。(143〜144ページ「二〇一八年 四月〜六月」より)
新たな出会いに偏った見方をする人もいるかもしれないが
さて、章が「秋 二〇一八年十月」に進むと、読者はちょっとした違和感と出合うことになる。5月の時点で「二月にあった名古屋の私の写真展に遊びに来ていた若い男の子で、今年の四月から東京で働いている」と紹介されている"ミツくん"から、いつの間にか"くん"が外されているのだ。そしてその頃から、彼は著者の家に半同居の状態となる。
石田さんを中心とした家族とはまた違った集合体が誕生したのだ。結婚する気はないとはっきり明言しているとはいえ、形はともかく、これは新たな人間関係のかたちである。そしてそれが、著者と娘たちをさりげなく支えていくことになる。
9時半に八王子着。今日の撮影のクライアントのMさんに会うのは一年ぶり。(中略)
最近何か面白いことありましたか?と聞かれ、一緒に暮らしている人がいるという話をする。
「私の本を読んでいて、写真展に来てくれた時に知り合ったんです」
ミツのことをどんな風に説明しても、年の差があるというだけで、何か後ろめたさを感じてしまう自分がいる。逆に自分が聞かされる立場だとしても、怪しい、胡散臭い、いかがわしいと思わざるを得ない。そしてその年の差について考える時、どうしても石田さんと自分のことが頭によぎる。今回は私が年上であり、ミツとの間については、何かと思うことがある。でも、石田さんとの年の差のことで、自分が問題に思うことは、一度もなかった。年の差云々よりも、ただ人として石田さんを見ていた。石田さんはどんな風に、年の差や私のことを考えていたのだろう。(168ページ「二〇一八年 十月」より)
この時点で、著者は34歳、一方の"ミツ"は24歳だ。そして石田さんは著者より24歳年上だった。