最新記事

BOOKS

難治がんの記者が伝えたい「がんだと分かった」ときの考え方

2019年5月7日(火)17時45分
印南敦史(作家、書評家)

がんと付き合うとき、なによりも大切なのは、自分の「スペア」になってくれる相手との関係だと著者は言う。

病気による痛み、抗がん剤の副作用、手術前後の麻酔、ふだんどおりに頭が働かなくなることなど、さまざまな問題が起こるはずだ。そのとき、「スペア」としての相手が自分並みかそれ以上に知識を持ち、同じ価値観で判断できるかどうかが重要だということ。

相手から教えられたり、話し合いによってお互いの理解が深まったりする相乗効果も期待できるわけだ。

いわば大切なのは、「いまこれから」変えることのできる未来だということ。そのような観点から、著者は読者に向けて次のような提案をしている。


(1)本気でがんを早く見つけたいか、それは誰(何)のためか、考える。検査に万全を期しても早期発見できるとは限らないことも知っておく。
(2)がんかもしれない、と言われたら、誰にどんな言い方で伝えるか。安心感ほしさに楽観せず、最悪の展開も考える。検査の予約などは早めに。「空白」をつくらない。
(3)パートナーとの関係をよりよくするために何ができるか。これを読んだあと、実際にやってみる。(18ページより)

がんに限らず、難しい病気にかかった患者の多くは「なぜ病気になったのか」と疑問を持つこともあるはずだ。著者も同じで、病気を知らされた頃は本書の執筆時よりも体重が30キロ近く重かったため、肥満によって病気のリスクが高まったのかとぼんやり考えたそうだ。

とはいえ、それで後悔に襲われたかというと、「そうでもない」のだとか。人は自分の間違いを認めたがらないものだから、「強がっていないか?」と改めて自問してみたものの、やはり心が動揺し始めることはなかったという。

だが、その一方、2016年の暮れから「底なし沼のような」3つの苦難が次々にやってきて、追い詰められていくことになる。最初の苦悩は、本が読めなくなったことだった。


 2度目の手術の翌月にあたる12月、入院中のある日、本を読み出しても2、3ページで閉じてしまっている自分に気づいた。何を読んでも脳みそに霧がかかったようで、残らない。情報を収めるタンスがもういっぱいで、新しく入れようにもはじき返されてしまう。寿命を考えれば、本で得た知識を生かす機会もなければ、本を楽しんでいる余裕もない。しかし、読めるうちは読もうと決めた矢先だけに、参った。(31ページより)

本が読めないくらい、たいしたことではないと思われるかもしれないが、これはなんとなく理解できる。私自身、いつか入院することになったら、読めないままになっている本を一気に読もうなどと思っていたからだ。だが、そういう境地にはいられなくなることを、この記述は明らかにしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中