最新記事

LGBT

「あなたはゲイですか?」って聞いてもいいんですか

2015年11月6日(金)16時15分
小暮聡子(本誌記者)

――日本人は表面上だけでも付き合っていける社会ということなのか。裸の付き合いになるまでが長いとか......。

 それもあるし、もう1つには、日本は身内社会だということ。身内か、それとも赤の他人か。身内になったらみんな仲良しだが、赤の他人には話しかけもしないし、ジャガイモと一緒(笑)。一方でアメリカには、個人と公共(パブリック)の空間というのがあって、公共の空間では個人と個人が交流できて、市民社会が成り立っている。日本にはアメリカのような公共の空間がないから、カムアウトしづらいところがある。赤の他人の空間に出て行ってカムアウトしたってしょうがないし。アメリカのように、みんながつながっている公共の場に出て行ってカムアウトして、そこでサポートを得ることができない。そういう社会構造の違いがある。

自分は「ホモ」ではなかったが、「ゲイ」の定義がまだなかった

――ストレートの側から、「ゲイですか?」と聞いていいのだろうか。

 もちろん聞いていい。だけど、言う覚悟が出来ている人とそうじゃない人はいる。あとは、聞かれたときにその人がどんな意味で聞いているのかは何となく分かる。興味本位で聞いているのか、本当の友達になりたくて聞いているのか、自分に興味があって聞いているのか。普段の付き合いや仕事ぶりからも、その人がどんな人かは分かる。差別や偏見を持っている人なのか、そうではないのか。ゲイなのって聞いてもいいけれど、そこで言うかどうかはその人の個性もあれば、聞いている人間に対する評価も入る。

 自分と一番仲の良い親友が本当はゲイかもしれないのに、それに気付かない人もいる。日本はそういう可能性を排除しているというか、そういう発想に至る回路がなかった。日本でゲイと言うとみんな「オネエ」だったり、お笑いで仕込んだイメージだったり。でも本当は、そんなゲイばかりではない。ニューヨークにいると、ゲイっていってもイケメンもいればお父さんもいるし、エロい親父もいるし、異性愛者と同じで色々な人間がいる。ゲイが可視化されていて、目に見えるサンプル数が多いから、ゲイの正しい定義を学習できる。日本には学習する機会がない。

 数十年前の日本を振り返ると、ネットもないし、ゲイやレズビアンについての情報がなかった。リアルタイムで「ストーンウォールの反乱」(編集部注:1969年、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で警察と同性愛者の間で乱闘騒ぎが起き、ゲイ解放運動の転換点になった事件)を報じているメディアは一社もなかった。僕が新聞記者時代に初めてストーンウォールについて書いたときは、資料室で過去の資料をあさりながらだった。

 その後に、ニューヨークのゲイパレードが「ホモたちの祭典」「ホモたちのパレード」などと報じられるようになった。80年代後半にエイズの問題が持ち上がって、僕もエイズ報道にかこつけて色々なことを書き始めた。その頃に、「ホモ」をやめて「ゲイ」という言葉を使いましょうとなってきた。

――北丸さんご自身は、いつ自分がゲイだと気付いたのか。

 自分はゲイだと決めたのは80年代、30歳過ぎてから。当時は自分を定義する言葉がなくて、特に日本の場合は自分で作っていかなきゃならなかった。「ゲイ」という言葉は日本では奪われていて、「ホモ」という言葉が流布されていた。自分は「ホモ」では絶対になかったが、「ゲイ」の定義もまだ作られていない時代だった。

 自分は男の子が好きだというのは、思春期から分かっていた。札幌での高校時代、女の子と付き合っていながら男の子を好きになったが、周りには男を好きという子が1人もいなかった。良い友達が多かったので、周りの友達には男が好きだと言っていた。自分が好きな男の子には言えなかったけど(笑)。同性愛に関してはとにかく情報がなかった。異常性愛、性的倒錯という情報しかなかった。そうではなくて、これが同性愛なのかなとは思っていたが、30歳を過ぎてから「俺はゲイなんだ」と分かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中