ジェームズ・ボンドを脅かす悪玉が最高
もう1本の映画にも注目
とりわけエロティックなシーンは、シルバとボンド(!)の絡みだろう(熱烈な007ファンは冷や汗が出るかもしれない)。2人が初めて対面するシーンで、シルバは後ろ手に縛られたボンドの顔、そして胸をなでる。まるでボンドガールの豊満な胸をなでるかのように......。
さらに意味ありげなことを言うシルバに、ボンドはクールな顔で言い放つ。「私に経験がないとでも?」
『スカイフォール』のメディア向け試写が始まると、このシーンはたちまち大きな話題となった。そして宣伝のために訪れる都市で、バルデムが一番よくされる質問は「シルバはゲイなのか? そしてボンドも......?」になった。
「さあね」と、バルデムはにやりと笑いつつ、ある記者会見でクレイグが語った言葉を紹介してくれた。「シルバはゲイなのではないかという人がいるが、私に言わせれば、彼にとって相手は人間でも何でもいいんじゃないかな」
「そのとおりだ」と、バルデムは言う。「この男は人里離れたところに暮らしていて、ありとあらゆる不快なことに手を染めているからね」
では「ジェームズ・ボンドのゲイ疑惑」が騒ぎになっていることについてはどう思うのか。「どう解釈するかは人それぞれだ」と、バルデムは受け流す。
11月には、バルデムが関わったもう1つの大きな映画が公開された。アルバロ・ロンゴリアらと共同で製作したドキュメンタリー『ラスト・コロニー』だ。
映画のテーマは西サハラ問題。この地域はかつてスペイン領だったが、サハラ・アラブ民主共和国(亡命政府)とモロッコが領有権を主張して争い、10万人がアルジェリアの難民キャンプで35年以上も暮らしている。バルデムは4年前にキャンプを訪問して、難民たちのテントに寝泊まりして以来、この映画を作り始めた。
映画では難民たちの厳しい暮らしとともに、この問題に世界の注目を集めて変化を起こそうとするバルデムとロンゴリアが、官僚主義の壁にぶつかり苦悩する様子が記録されている。
ただし『ラスト・コロニー』が見られるのは今のところiTunes(アメリカ)のみ。世界80カ国以上で公開され、興行収入記録を塗り替えている『スカイフォール』とは大違いだ。
『ラスト・コロニー』はヒットを飛ばすためではなく、西サハラの人たちについてもっと関心を持ってもらうために作ったと、ハビエルは言う。「彼らは考え得る最悪の状況にいる。でも彼らには信念があって、世界がこの問題を解決してくれるのを待っている」
『スカイフォール』で世界を混乱に陥れるテロリストを演じたバルデムは、実は世界を救おうとしているのだ。
[2012年12月 5日号掲載]