最新記事

海外ノンフィクションの世界

加齢を味方につけたアスリートに学ぶ、トレーニング法・疲労回復法

2020年4月10日(金)15時35分
船越隆子 ※編集・企画:トランネット

印象的なセンテンスを対訳で読む

最後に、印象に残るセンテンスを紹介しよう。以下は、『アスリートは歳を取るほど強くなる』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。

●"The best players in the world work the hardest, but they also have the most fun."
(「世界のベストプレイヤーたちは、一番ハードに働くが、同時に、一番楽しんでもいるんだ」)

――スポーツ心理学者ジム・アフレモウの言葉。上記のロジャー・フェデラーにも通ずる。また、トム・ブレイディも、5度目のスーパーボウルに勝った後にこう言った――「フットボールをプレーすること以外で好きなことは、フットボールをプレーするために準備をすることかな」。

●"The fastest player on the field isn't the person with the fastest body, but with the fastest mind,"Galanis says.
(「フィールドで一番速いプレイヤーは、最速の足を持っている者ではなく、最速の精神を持っている者だ」と、ガラニスは言う。)

――米国女子サッカー選手カーリー・ロイドのコーチをしていたガラニスの言葉。「遅さ」を追求していたということにつながる。若い選手は、反射神経は速いが、判断速度が速いことは滅多にない。サッカーでは、起こっていることを効率よく判断する速度が必要で、それは経験を積んだプレイヤーのほうが勝るということ。

●"Your peak ends where you want it to end. There is no peak. There is no peak," Galanis says, repeating that last remark slowly for emphasis. "There is no peak and there is no talent. We make talent. No one is born hitting three-pointers on a basketball court, or bending balls in the top corner. Talent is made."
(「ピークは、自分が終わりにしたいと思ったところで終わる。だからピークは存在しない。ピークというのはないんだよ」と、ガラニスは言った。強調するかのように、2度目はゆっくりと繰り返した。「ピークは存在しないし、才能も存在しない。才能は作るものだ。誰も、生まれながらにしてバスケットボール・コートでスリーポイント・シュートを打ったり、蹴ったボールのコースを曲げてコーナーの上隅に入れたりできるわけではない。才能は作られるんだ」)

――これも、ガラニスの言葉。カーリー・ロイドが、速さではなく、早い判断を武器に活躍し、FIFAのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた後、著者がガラニスに「彼女はピークに達したのか?」と尋ねた時の返事。ロイドはまだ進化し続けるつもりで、ガラニスは「次の目標は、これまでで最高のプレイヤーになることだよ」と言った。

◇ ◇ ◇

本書の原題は『Play On』。東京オリンピック・パラリンピックの延期も決まり、スポーツを愛する人たちにとって、今は我慢の時かもしれない。だが新型コロナウイルスの猛威もいつかは収まる。そうなったときには、アスリートも、アスリートでない普通の私たちも、さあ、始めよう。さあ、続けよう。私たちは、歳を取るほど強くなれるのだから。


アスリートは歳を取るほど強くなる
 ――パフォーマンスのピークに関する最新科学
 ジェフ・ベルコビッチ 著
 船越隆子 訳
 草思社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
https://www.trannet.co.jp/

202003NWmedicalMook-cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

SPECIAL EDITION「世界の最新医療2020」が好評発売中。がんから新型肺炎まで、医療の現場はここまで進化した――。免疫、放射線療法、不妊治療、ロボット医療、糖尿病、うつ、認知症、言語障害、薬、緩和ケア......医療の最前線をレポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中