加齢を味方につけたアスリートに学ぶ、トレーニング法・疲労回復法
さらに、著者の興味は最新の科学的な領域――故障をしやすい体型や体質、動作の癖による身体への影響から、生来の才能や遺伝子レベルでの向き不向きにまで及び、さまざまな分野の研究者や学者たちを訪ねて話を聞く。
そして最終的には、自分も「まだ始められる」と思うのだ。30歳過ぎにしてサッカーを始めた彼は、もう少しソフトなスポーツとしてサイクリングも始め、そこでも新たな発見をして楽しんでいる。
何十年も同じ方法で身体に挑ませることも、別の方法に挑戦してみることも、どちらも素晴らしいと彼は言う。そのしなやかさこそが、彼が 4年間かけて見てきた熟年のトップアスリートたちの生きざまから学んだことなのではないだろうか。
プロスポーツの世界にも「年の功」はある
本書は、まさにタイムリーと言うべき1冊だろう。
現在、日本のスポーツ界では、多くの熟年アスリートが第一線で活躍している。サッカーでは、53歳の三浦知良選手や41歳の中村俊輔選手が所属する横浜FCが2019年、13年ぶりにJ2からJ1に昇格し、今年2月のJリーグ第1節で、中村選手はJ1先発最年長記録を塗り替えた。野球では阪神に42歳の福留孝介選手がいるし、スキーのジャンプでは、47歳のレジェンド、葛西紀明選手もいる。
そして、アマチュアでは、概ね30歳以上なら誰もが参加できる国際的スポーツ祭典「ワールドマスターズゲームズ」が、来年は関西で開かれる予定だ。マラソンをはじめスポーツを楽しむ熟年アスリートが珍しくなくなった今、この本に書かれているトレーニング方法やアスリート生活の工夫は、興味深いものだろう。
女子サッカーのカーリー・ロイドは、プレーが「遅くなったから」とレギュラーを外されそうになったが、実は彼女とコーチは、10年がかりでその「遅さ」を追求していたのだという。若い時のがむしゃらに「速い」だけでなく、ゆっくり落ち着いて、的確な判断をしてから飛び出すことができる能力を目指していた。それは、歳を重ねたからこそ可能になったことだった。
テニス選手のスタン・ワウリンカは、神経質で感情的になるタイプだったが、テニスの世界ではもうピークを過ぎたと言われる30歳近くになって、感情をコントロールしてプレーに集中できるようになり、優勝できるようになった。これこそ「年の功」ではないだろうか。
また、ロジャー・フェデラーは、厳しい選手生活が続いても、「テニスをすることが楽しい」と言い切る。長くトップアスリートでいられる人たちは皆、大変な努力をしつつも、そのスポーツを愛し、楽しんでいる。それが長く続けられる理由の1つでもあるに違いない。
人生100年時代の今、私たちは何歳になっても身体を動かす何かを始めることができる。いや、始めなければならないだろう。そうした時のための、何かしらのヒントが、この本にはあると思う。