最新記事

海外ノンフィクションの世界

加齢を味方につけたアスリートに学ぶ、トレーニング法・疲労回復法

2020年4月10日(金)15時35分
船越隆子 ※編集・企画:トランネット

さらに、著者の興味は最新の科学的な領域――故障をしやすい体型や体質、動作の癖による身体への影響から、生来の才能や遺伝子レベルでの向き不向きにまで及び、さまざまな分野の研究者や学者たちを訪ねて話を聞く。

そして最終的には、自分も「まだ始められる」と思うのだ。30歳過ぎにしてサッカーを始めた彼は、もう少しソフトなスポーツとしてサイクリングも始め、そこでも新たな発見をして楽しんでいる。

何十年も同じ方法で身体に挑ませることも、別の方法に挑戦してみることも、どちらも素晴らしいと彼は言う。そのしなやかさこそが、彼が 4年間かけて見てきた熟年のトップアスリートたちの生きざまから学んだことなのではないだろうか。

trannet20200410playon-3.jpg

imacoconut-iStock.

プロスポーツの世界にも「年の功」はある

本書は、まさにタイムリーと言うべき1冊だろう。

現在、日本のスポーツ界では、多くの熟年アスリートが第一線で活躍している。サッカーでは、53歳の三浦知良選手や41歳の中村俊輔選手が所属する横浜FCが2019年、13年ぶりにJ2からJ1に昇格し、今年2月のJリーグ第1節で、中村選手はJ1先発最年長記録を塗り替えた。野球では阪神に42歳の福留孝介選手がいるし、スキーのジャンプでは、47歳のレジェンド、葛西紀明選手もいる。

そして、アマチュアでは、概ね30歳以上なら誰もが参加できる国際的スポーツ祭典「ワールドマスターズゲームズ」が、来年は関西で開かれる予定だ。マラソンをはじめスポーツを楽しむ熟年アスリートが珍しくなくなった今、この本に書かれているトレーニング方法やアスリート生活の工夫は、興味深いものだろう。

女子サッカーのカーリー・ロイドは、プレーが「遅くなったから」とレギュラーを外されそうになったが、実は彼女とコーチは、10年がかりでその「遅さ」を追求していたのだという。若い時のがむしゃらに「速い」だけでなく、ゆっくり落ち着いて、的確な判断をしてから飛び出すことができる能力を目指していた。それは、歳を重ねたからこそ可能になったことだった。

テニス選手のスタン・ワウリンカは、神経質で感情的になるタイプだったが、テニスの世界ではもうピークを過ぎたと言われる30歳近くになって、感情をコントロールしてプレーに集中できるようになり、優勝できるようになった。これこそ「年の功」ではないだろうか。

また、ロジャー・フェデラーは、厳しい選手生活が続いても、「テニスをすることが楽しい」と言い切る。長くトップアスリートでいられる人たちは皆、大変な努力をしつつも、そのスポーツを愛し、楽しんでいる。それが長く続けられる理由の1つでもあるに違いない。

人生100年時代の今、私たちは何歳になっても身体を動かす何かを始めることができる。いや、始めなければならないだろう。そうした時のための、何かしらのヒントが、この本にはあると思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中