最新記事

語学

日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません

MUCH TOO SIMPLE

2019年4月2日(火)16時25分
井口景子(東京)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン)

仕事における最終的なゴールは相手に何かを伝えることではなく、ビジネス上の結果を出すこと。

「ビジネスコミュニケーションの世界では(自分の好感度を上げる)印象マネジメントがカギとなる。そのためには失礼にならない大人の英語が必須だ」と、佐藤は言う。「多様な民族や宗教が共存する欧州の人々は、そうした点に日本人よりずっと敏感だ」

コミュニケーション方略と呼ばれるこうした知識は、日本の英語教育ではほとんど教えられない。「学校の教科書は間違いだらけだ」と、日米のビジネス作法の違いに詳しい経営コンサルタントのロッシェル・カップは言う。

英語はストレートな言語だから回りくどい表現は不要という誤解も、コミュニケーション方略をないがしろにする風潮に拍車を掛けているのかもしれない。

実際には英語にも多様な婉曲表現が存在し、遠回しな言い方を好むイギリス人はもちろん、自己主張が強いと言われるアメリカ人でさえ丁寧で軟らかい表現を使いつつ、意思を明確に伝えられるよう工夫を凝らしている(具体例は本誌28ページ記事参照)

でも、非ネイティブ同士ならそんな気遣いは不要では? いや、そんなことはない。例えば中国人は押しの強いイメージがあるが、相手の面目をつぶさないことを重んじるため、ストレートに命令する表現を敬遠する傾向がある。

カップによれば、相手を思いやる婉曲表現や、繊細で上品な言い回しが日本以上に期待される文化も少なくない。「常識の異なる人同士が対話するのだから、悪い印象を与えないよう細心の注意を払うのは当然のこと。相手をイラつかせたら、それだけでビジネスにとって大きなマイナスだ」

注意が必要なのは会話の場面だけではない。書き言葉は知性の尺度と見なされるため、そこでの失敗は話し言葉以上に致命傷になりかねない。

日本人は会話のときには些細なミスも恐れる一方、書き言葉でミスを犯すことへの警戒心がとても薄いと、カップは指摘する。実際、ビジネスメールやプレゼン資料から町の看板まで、至る所にスペルや文法のミス、おかしな論理構成が日本にはあふれている。

特にアメリカ人は外国人を潜在的な移民と見なし、誰もが英語習得に努力するものと無意識に考えているため、「推敲が可能な書き言葉での間違いは、改善の努力を放棄しているように映り、評価を大きく下げてしまう」。

magSR190402-2.jpg

ILLUSTRATION BY TAKUYA NANGO FOR NEWSWEEK JAPAN

「ネイティブ講師」幻想が消滅

グローバルビジネスの最前線で働く人々は、こうしたプレッシャーを日々、肌で感じている。彼らの危機感は相当なもので、文字どおり人生を懸けて英語習得に取り組む人も多い。

切実な声に応えるべく、日本のビジネスパーソン向け英語教育業界にも大きな変化のうねりが起きている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル、ガザ住民受け入れ巡りアフリカ3カ国

ビジネス

ECBの4月据え置き支持、関税などインフレリスク=

ビジネス

中国新規銀行融資、予想以上に減少 2月として202

ビジネス

独BMW、関税戦争が業績10億ユーロ下押しへ 24
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 8
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 9
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 10
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中