日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません
MUCH TOO SIMPLE
仕事における最終的なゴールは相手に何かを伝えることではなく、ビジネス上の結果を出すこと。
「ビジネスコミュニケーションの世界では(自分の好感度を上げる)印象マネジメントがカギとなる。そのためには失礼にならない大人の英語が必須だ」と、佐藤は言う。「多様な民族や宗教が共存する欧州の人々は、そうした点に日本人よりずっと敏感だ」
コミュニケーション方略と呼ばれるこうした知識は、日本の英語教育ではほとんど教えられない。「学校の教科書は間違いだらけだ」と、日米のビジネス作法の違いに詳しい経営コンサルタントのロッシェル・カップは言う。
英語はストレートな言語だから回りくどい表現は不要という誤解も、コミュニケーション方略をないがしろにする風潮に拍車を掛けているのかもしれない。
実際には英語にも多様な婉曲表現が存在し、遠回しな言い方を好むイギリス人はもちろん、自己主張が強いと言われるアメリカ人でさえ丁寧で軟らかい表現を使いつつ、意思を明確に伝えられるよう工夫を凝らしている(具体例は本誌28ページ記事参照)。
でも、非ネイティブ同士ならそんな気遣いは不要では? いや、そんなことはない。例えば中国人は押しの強いイメージがあるが、相手の面目をつぶさないことを重んじるため、ストレートに命令する表現を敬遠する傾向がある。
カップによれば、相手を思いやる婉曲表現や、繊細で上品な言い回しが日本以上に期待される文化も少なくない。「常識の異なる人同士が対話するのだから、悪い印象を与えないよう細心の注意を払うのは当然のこと。相手をイラつかせたら、それだけでビジネスにとって大きなマイナスだ」
注意が必要なのは会話の場面だけではない。書き言葉は知性の尺度と見なされるため、そこでの失敗は話し言葉以上に致命傷になりかねない。
日本人は会話のときには些細なミスも恐れる一方、書き言葉でミスを犯すことへの警戒心がとても薄いと、カップは指摘する。実際、ビジネスメールやプレゼン資料から町の看板まで、至る所にスペルや文法のミス、おかしな論理構成が日本にはあふれている。
特にアメリカ人は外国人を潜在的な移民と見なし、誰もが英語習得に努力するものと無意識に考えているため、「推敲が可能な書き言葉での間違いは、改善の努力を放棄しているように映り、評価を大きく下げてしまう」。
「ネイティブ講師」幻想が消滅
グローバルビジネスの最前線で働く人々は、こうしたプレッシャーを日々、肌で感じている。彼らの危機感は相当なもので、文字どおり人生を懸けて英語習得に取り組む人も多い。
切実な声に応えるべく、日本のビジネスパーソン向け英語教育業界にも大きな変化のうねりが起きている。