最新記事

語学

日本人が知らない「品格の英語」──英語は3語で伝わりません

MUCH TOO SIMPLE

2019年4月2日(火)16時25分
井口景子(東京)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン)

そうした「新しい形のグローバル英語が標準になっている」と、BMWやボッシュといった多国籍企業に研修を提供する英ファーンハム・キャッスル社のクリス・マッシーは言う。「英語はもはやネイティブ話者だけのものではない」

英語に苦手意識を抱える日本人にとっては、ネイティブ英語とは別の意味でハードルの高い目標かもしれない。

日本でも英語ニーズの高まりは明らかだろう。本格的な英語力を要求されるのが外資系企業や商社ぐらいだった時代は遠い昔。自他共に認める「ドメスティック人材」が企業合併や取引先の見直しによって突然、外国人とのテレビ会議や海外出張に駆り出されるといったエピソードは後を絶たない。

一方、こうした変化に呼応して「ポスト・グロービッシュ時代」に求められる英語力の習得が進んでいるかと問われれば、答えは微妙なところ。

英語が必要な人の裾野が広がるなか、むしろ最近は意味さえ伝われば正しい英語でなくても構わないと割り切った、ある意味でグロービッシュと似た発想のアプローチが人気を集めている。

書店では「3語でOK」「中学英語で通じる」といったうたい文句の書籍がいくつもベストセラーリストにランクイン。「最小の努力で最大のリターンを得られそうな『レバレッジ』の効いたキャッチフレーズに引き付けられる人が非常に多い」と、ビジネスパーソンの英語教育事情に詳しい東洋大学の佐藤洋一准教授は言う。

限られた語彙で大丈夫というアプローチは確かに、ミスを恐れて何も言えなくなりがちな人にとっては心強い後押しになりそうだ。だが手持ちの初歩的な知識で何とかなるという発想は、必死で英語力に磨きをかける各国のビジネスパーソンの動きに逆行している。

そうした安心感が独り歩きすれば、地道な努力を重ねて英語力を高める必要はないという誤ったメッセージにもつながりかねない。「中学レベルの語彙や文法を学び直すことに意義があるのは事実だが、そこで止まっていいという意味ではない」と佐藤は言う。

それどころか、「通じればOK」という簡易版英語は、仕事上の不利益をもたらすリスクさえはらんでいる。幼稚な印象を与えて人事評価が下がった、パワハラと誤解された、品のない言い回しで人間関係が悪化した......。しかも文化の違いが障壁となり、何が問題だったのか自分では気付かないケースも多いから厄介だ。

【関連記事】英語は「複雑で覚えにくい」、pleaseで失礼になることもある

書き言葉の間違いが致命傷に

例えば、着席を勧めるときに使いがちな「Please sit down.」。中学校で必ず習うこの命令文は文法的には正しくても高圧的に指示するニュアンスが強く、特に仕事の場ではふさわしくない場合が多い(佐藤によれば「Have a seat./Take a seat.」のほうが適切な表現)。どの言語でも、丁重に依頼したり遠回しに断る際は文が長くなり、文法も複雑になる傾向がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中