世界が注目する地方の和食文化──食団連が語る外食産業の持続可能な未来
インバウンド需要拡大で見えた「地方の可能性」
──和食への評価の高まりが、現在のインバウンド需要にも結びついているわけですね。
山下 日本の食への評価が高まり続けているのは嬉しいことですが、一方で、寿司店など一部で価格が高騰している、という日本人からの不満が聞こえてくるのも事実です。こういった状況については、海外と日本の価値観の差に大きく起因していると感じています。日本人はどちらかというと技術やサービスにお金を払うという考えがそもそも希薄です。本来、寿司や天ぷらを調理する技術は簡単に習得できるものではありません。海外ではそうした職人の争奪戦が起きています。技術に対してリスペクトする文化が元々あるのですよ。
──コロナ禍前後で外食産業を取り巻く環境はどのように変化したのでしょうか。
山下 コロナ禍前から政府自ら観光立国を目指し、さまざまな施策を行ってきました。政府を含め、さまざまな方々が仕込みを行ってきたのは事実です。残念ながらコロナ禍で一旦、中断を余儀なくされましたが、その後、インバウンド需要が一気に花開いたのは事実でしょう。
一方で国内に目を向けると、コロナ禍で内食や中食などのスタイルが根付いてきました。例えばコンビニやスーパーで惣菜などを買って一食分とする方も多いと思いますし、Uber Eatsなどのデリバリーも普及しています。こうした日本人の食スタイルの変化を踏まえると、(インバウンド需要は)外食産業が生き残る1つの方法だと考えています。ただ、インバウンド需要だけに頼ってしまうと、先程述べたような価格高騰の弊害などのリスクもはらんでいます。バランスが非常に難しいですよね。
家中 山下の指摘どおり、多くの飲食店がインバウンドの受け入れ整備を進めていたところに、残念ながらコロナ禍に入ってしまいました。2023年の渡航制限の緩和以降は、和食を目当てに多くの来日客が急増し、インバウンドをしっかりと取り込んでいるのが現状だと思います。
インバウンド消費に占める外食費の割合は、コロナ禍前の2019年と比べて約1.7倍に増加しています。消費額全体の実に約3割が飲食費に使われているのですが、いかに訪日客の皆さまが日本の食に期待を寄せてくださっているかが分かります。
山下 インバウンドによる飲食関連の消費額が、日本の農林水産物・食品の輸出額をしのぐ勢いになっているのですよね(編集部注:2024年のインバウンドによる飲食関連の消費額は約1兆7000億円に上り、2024年の農林水産物・食品の輸出額である約1兆5000億円を上回っている)。
家中 こうしたインバウンド需要を今後も飲食店は確実に取り込んでいく必要があると感じています。海外からの検索数を見ると、以前は「寿司」や「すき焼き」など分かりやすい和食が上位に来ていたのですが、最近は「もんじゃ焼き」「お好み焼き」が検索上位に来るなど、ジャンルが細分化されている傾向が。それだけ海外の方も日本の食に詳しくなっているのです。
山下 現在、インバウンドの注目はどんどん地方に向かっています。例えば博多の屋台などはインバウンドで行列が出来ていますし、函館のラッキーピエロ(ご当地ハンバーガーチェーン)もそう。要は雰囲気や空間も含めて地方の食を楽しんでいるわけです。
家中 そうですね。ただ、地方でもまだ一部のエリアなど偏った場所にインバウンドが集中しているので、今後、いかにその地域的な濃淡を均等にしていくか? その受け皿をどう構築していくのか? が食団連としても課題だと捉えています。