蟹江憲史教授が国連から任命されて書いた、SDGs「2030年まであと7年」の現実と希望
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授。日本でSDGsの研究と実践を牽引し、9月には国連事務総長の任命を受け「持続可能な開発に関するグローバルレポート(GSDR 2023)」を共同執筆した Photo:遠藤 宏
<世界の独立科学者15人の1人として、2023年のグローバルレポートを執筆したSDGsの第一人者に聞いた。厳しい現状をまとめたレポートに込められたメッセージとは?>
「2030年」まで、あと7年――。
12月13日、中東のドバイで開かれていたCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)が閉幕した。焦点となったのは「化石燃料からの脱却」。世界は今、温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目標に掲げているが、その目標年は2050年だ。あと27年。
それに対し、気候変動だけでなく、貧困やジェンダー、教育、働き方、まちづくりまでも包括するSDGs(持続可能な開発目標)は、目標年を2030年としている。2015年に国連の全加盟国が合意し、2030年までに解決を目指す課題として、17の目標と、それらを細分化した169のターゲットが定められた。
あと27年だろうが、あと7年だろうが、これらの地球的課題への取り組みは待ったなしの状況だ。日本のSDGs研究の第一人者である蟹江憲史さんなら、現状をどう見ているだろう。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江教授は、国内外でSDGsや環境問題を中心に活躍中。国際研究プログラムFuture EarthのSDG Knowledge Action Network共同議長などを歴任し、日本政府のSDGs推進円卓会議構成員なども務める。
9月には国連事務総長の任命を受けた世界の独立科学者15人のうちの1人として、「持続可能な開発に関するグローバルレポート(Global Sustainable Development Report 2023、GSDR 2023)」を発表した。
ニューズウィーク日本版ではこの春、「日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく――」という考えのもと、「SDGsアワード」を立ち上げた。蟹江さんには本アワードの外部審査員を務めていただく。
11月末に行った蟹江さんへのインタビューを、前後編に分けて掲載する(この記事は前編)。
※後編はこちら:日本はSDGs浸透度「世界一」、この武器をどう使うかが次の課題だ――蟹江憲史教授
――前回の「持続可能な開発に関するグローバルレポート(GSDR)」発表が2019年。それから4年が経ち、SDGsが目標年としている2030年まで残り7年という時期になる。今回GSDRをまとめるにあたって、苦労した点は?
2020年から3年かけて調査、議論をしていったが、(新型コロナウイルスの)パンデミックがあり、なかなか対面で集まることができなかった。パンデミックが終わってからも、15人の科学者の中にはロシアの方もいて、ニューヨークでのミーティングに来られなかったり。前回の2019年版では対面で議論を重ねたが、今回は半分以上がオンラインで、チームとして進める上での難しさがあった。
独立科学者15人は、地域のバランスも、性別のバランスも取れていて、年齢でも多様性がある。いろいろな国、立場の視点からSDGsの現状を見ることができたのは、非常に良い経験だった。