インクルージョンを経営戦略に── 多様性に関するP&Gの取り組み
AT THE CORE IS INCLUSION
実は、上司と部下のコミュニケーションギャップが女性昇進の1つの壁であることは、18年に経済産業省が行った働く女性の実態調査でも明らかになった。女性特有の健康問題により、職場で昇進やキャリアアップを「諦めなくてはならない」と感じた経験のある女性は約43%に上った。プライベートな事情を切り出しにくい、相談しても分かってもらえない、という社内の空気が女性のキャリアプランを左右している実態がある。
P&Gジャパンはこういったコミュニケーションギャップを、自社開発のスキル研修で補ってきた。一般社員、社長を含めた役員、管理職と階層別に全社員に実施しているが、中でも管理職に対する研修を重視。部下の悩みや課題感に寄り添えなかったり、無意識な言動で心を傷つけたりすることがないようにするためだ。
住友はこの研修を推奨してきたことが女性管理職の増加はもちろん、社員一人一人の個性を生かす企業風土に貢献しているとみる。「インクルージョンは人徳のように言われることもあるが、管理職にとってはビジネススキル。究極は相手を知る、理解する、そして自分を知るということ」。例えば、男性、健康、有職者、異性愛者......と世の中の多数派になりやすい人も、ある分類では少数派になることがある。そんな場面を作って「女性は職場でこんな思いをしているのか」と体感してもらう。
あるいはケーススタディーを通して自分と相手の仕事のモチベーションは違うことを知り、自分の中に眠る無意識のバイアスを認識してもらう。自らの先入観に気付くことでコミュニケーションの取り方に変化が起き、効果を上げているという。
ノウハウを社外にも公表
多様性やインクルージョンに関する取り組みが充実したのは、15年から今年2月まで日本法人社長だったスタニスラブ・ベセラの影響も大きい。ベセラはチェコ共和国出身。東欧、アフリカ、アジアの各地区を担当し、多様なビジネス環境を経験した。「インクルージョンがあるかないかで人の可能性は変わる。事業戦略に組み込むことが大事だ」と情熱を持って語ったという。