インクルージョンを経営戦略に── 多様性に関するP&Gの取り組み
AT THE CORE IS INCLUSION
ベセラ前社長(写真)はE&Iを経営戦略の中核に位置付けた COURTESY P&G
<人材の多様性に関し先進的な取り組みを進めるP&G、その姿勢は多様な消費者ニーズに応える力にもつながる>
日本のSDGs達成度で目立って遅れているのが目標5のジェンダー平等だ。総務省による労働力調査(2021年)によれば、女性管理職の割合は13.2%。微増はしているが、諸外国に比べるとかなり低い水準だ。昨年4月に女性活躍推進法が改正されたものの、政府が目指す3割の道はまだ遠い。
その3割の壁を13年に早々に越えたのが、消費財メーカー大手のP&Gジャパン合同会社だ。広報渉外執行役員の住友聡子は、「最終的に目指しているのは50:50なのでまだまだ道半ば」と話す。クオータ制は設けていないが、ゴールを意識しながら採用方法や昇進速度の男女差など、管理職に至るまでの段階を適宜見直すことで3割は維持できているという。
アメリカのオハイオ州で創業して186年になるP&Gは人材を一番の資産と考えてきた歴史がある。「お金とビル、ブランドを取り上げられても、社員さえいれば、10年で全てを元どおりに再建できる」。1948年、当時の米本社会長リチャード・R・デュプリーは社員に寄せる絶大な信頼をそう表現した。
P&Gジャパンのジェンダー平等を目指す取り組みは90年代前半に始まった。海外法人から日本に出向してきた女性管理職らが部下とキャリアプランについてざっくばらんに話し合う場をスタートさせたが、女性だけに特化していたことで女性からも男性からも違和感を唱える声が上がった。そこで性別不問とし、一人一人の希望や能力に沿った育成という考え方に軌道修正し、1999年にダイバーシティ推進担当を置いた。
13年、社員数千人規模の大企業としてはいち早く女性管理職3割を達成したが、多様性に対する考え方は深化を続けた。16年には社外向けダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクトが発足。「大事なのは違いを受け入れた上で多様な人材を活用していくこと。受容と活用を両輪で進めるためにインクルージョンの概念が加わった」と住友は経緯を説明する。企業活動でのインクルージョンとは、社員それぞれの個性や能力が尊重され、生かされる環境を指し、「包摂」などと訳されるが、P&Gジャパンでは「受容と活用」と訳している。
管理職への研修を重視
部署別採用のP&Gは入社すると、原則としてその道のエキスパートとして育成される。上司と部下は互いの仕事内容をよく理解し合う関係になるので、個々の働き方も直属の上司との対話に委ねているのが特徴だ。同じワーキングマザーでも在宅がいい人もいれば、出社したほうが効率の上がる人もいる。そのため制度はできるだけ柔軟性を持たせ、基本的には上司との合意で決める最善の働き方を尊重している。