最新記事
SDGs

インクルージョンを経営戦略に── 多様性に関するP&Gの取り組み

AT THE CORE IS INCLUSION

2023年3月17日(金)14時30分
岩井光子(ライター)
ベセラ前社長

ベセラ前社長(写真)はE&Iを経営戦略の中核に位置付けた COURTESY P&G

<人材の多様性に関し先進的な取り組みを進めるP&G、その姿勢は多様な消費者ニーズに応える力にもつながる>

日本のSDGs達成度で目立って遅れているのが目標5のジェンダー平等だ。総務省による労働力調査(2021年)によれば、女性管理職の割合は13.2%。微増はしているが、諸外国に比べるとかなり低い水準だ。昨年4月に女性活躍推進法が改正されたものの、政府が目指す3割の道はまだ遠い。

その3割の壁を13年に早々に越えたのが、消費財メーカー大手のP&Gジャパン合同会社だ。広報渉外執行役員の住友聡子は、「最終的に目指しているのは50:50なのでまだまだ道半ば」と話す。クオータ制は設けていないが、ゴールを意識しながら採用方法や昇進速度の男女差など、管理職に至るまでの段階を適宜見直すことで3割は維持できているという。

アメリカのオハイオ州で創業して186年になるP&Gは人材を一番の資産と考えてきた歴史がある。「お金とビル、ブランドを取り上げられても、社員さえいれば、10年で全てを元どおりに再建できる」。1948年、当時の米本社会長リチャード・R・デュプリーは社員に寄せる絶大な信頼をそう表現した。

P&Gジャパンのジェンダー平等を目指す取り組みは90年代前半に始まった。海外法人から日本に出向してきた女性管理職らが部下とキャリアプランについてざっくばらんに話し合う場をスタートさせたが、女性だけに特化していたことで女性からも男性からも違和感を唱える声が上がった。そこで性別不問とし、一人一人の希望や能力に沿った育成という考え方に軌道修正し、1999年にダイバーシティ推進担当を置いた。

13年、社員数千人規模の大企業としてはいち早く女性管理職3割を達成したが、多様性に対する考え方は深化を続けた。16年には社外向けダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクトが発足。「大事なのは違いを受け入れた上で多様な人材を活用していくこと。受容と活用を両輪で進めるためにインクルージョンの概念が加わった」と住友は経緯を説明する。企業活動でのインクルージョンとは、社員それぞれの個性や能力が尊重され、生かされる環境を指し、「包摂」などと訳されるが、P&Gジャパンでは「受容と活用」と訳している。

管理職への研修を重視

部署別採用のP&Gは入社すると、原則としてその道のエキスパートとして育成される。上司と部下は互いの仕事内容をよく理解し合う関係になるので、個々の働き方も直属の上司との対話に委ねているのが特徴だ。同じワーキングマザーでも在宅がいい人もいれば、出社したほうが効率の上がる人もいる。そのため制度はできるだけ柔軟性を持たせ、基本的には上司との合意で決める最善の働き方を尊重している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中