凄惨な殺人現場に、28トンのゴミに埋もれた屋敷...アメリカ特殊清掃員の「仕事場」
Cleaning Up Crime
血液などからの感染リスクもあるため防護服を着て作業に当たる LAURA SPAULDING
<流血の惨状やゴミの山におののくこともあるが、人々が悲しみにを乗り越えて前に進むのを助ける特殊清掃はやりがいがある>
父親が警察官だった影響で、子供の頃から警察の仕事をしたいと思っていた。カンザスシティーの市警察に採用されたのは1997年のこと。暴力犯罪の発生率が高い都市なので、むごたらしい現場を多く目にした。死体を初めて見たのは警察学校を出たての頃。ホテルのベッドの上で亡くなり、死後しばらくたって発見された男性の死体は腐敗ガスで膨らんでいた。
それから数年して仕事にも慣れてきた頃のこと。殺人現場で捜査を行った際、被害者の母親に「いつ家の清掃に来てくれるの」と聞かれた。そんな質問は初めてだった。
言われてみれば現場はひどい状況だが、清掃は警察の仕事ではない。調べて分かったのだが、通常はプロの業者が清掃を行うという。
それを知ってハッとひらめいた。犯罪現場を見慣れた自分にうってつけの仕事だ!
特殊清掃の訓練を受け、2005年に会社を立ち上げた。当初、社員は私1人。起業資金もわずかだったので、自分で歩いて宣伝して回った。
初仕事はクリスマスに起きたダブル殺人の現場の清掃。家族の中の2人が口論になり、キッチンで互いを射殺したのだ。特殊清掃では、新米でもいきなりこんな大仕事をやる羽目になる。
2日半ほどかけて何とかやり遂げ、大きな達成感を得た。これは人々が悲しみやショックを乗り越えて前に進むのを助ける仕事だと実感した。
背筋が凍り付く現場も
特殊清掃は普通の清掃とは全く違う。掃除は部屋の隅から始めるのが常識だが、特殊清掃はその逆で、二次汚染を避けるため天井から壁、そして床へと作業を進めていく。強力な消毒剤、脱臭剤、オゾンミスト発生器を使い、場合によっては床や壁を部分的に解体する作業も必要になる。
家具、布類、細かな装飾などが血痕や体液で汚染されていないか細かくチェックする。非常に神経を使う仕事だ。
入り口の壁に血が滴り落ちている犯罪現場の清掃に当たったこともある。一歩足を踏み入れると、そこはホラー映画『シャイニング』の世界。血の洪水が起きたかのような惨状に背筋が凍り付いた。
だが最も厄介なのはゴミ屋敷の片付けだ。異臭を放つ大量のゴミに加え、心理的にゴミをため込むようになった住人を相手にしなければならず、肉体的にも精神的にも消耗する。ゴミ屋敷に比べれば、複数の死者が出た銃撃現場の清掃のほうがましだと、わが社のスタッフが言うほどだ。