原研哉らが考える、コロナ後の「インバウンド復活」日本観光業に必要なもの
コロナ後の日本のインバウンド
日本へのインバウンドは、2009年から2019年の10年間で、670万人から3200万人まで伸び、およそ4.5倍に増えた。2020年の東京オリンピックの訪日客の期待もあり、2030年には6000万人にまで増加すると予測されていた。
コロナ禍で一時小休止となったが、インバウンドの総量は2024年には2019年のレベルに戻ると言われており、2030年に6000万人の外国人観光客が日本を訪れるという予測もおそらく変わらないとされる。
しかし、それを受け入れる日本の観光産業の質はどうか。
コロナ以前からも、人気観光地が過度に混雑し、地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」が指摘されていた。単にたくさんの外国人観光客が来ればいいというわけではない。むしろ、少なく来てより多く消費してもらうことが、今後の観光産業としては重要になってくる。
つまり、オーバーツーリズムに陥らないために、少ない観光客でも雇用を守りながら、その土地のポテンシャルをマックス値まで引き出すことが求められているのだ。
本書ではそうした観点から、厳島の「蔵宿 いろは」をどう再生していくのか、厳島の歴史、トランスポーテーション、建築、ツーリズム、文化の側面から様々な議論が展開される。そして最後に、3チームに分かれた会議メンバーがそれぞれの構想をプレゼンテーションする。
「神の島に泊まる」というコンセプトから、「陸のガンツウ」への道筋のつけ方、「ふろとすし」の宿といった具体的な提案まで――。本書に詳述されたこれらの構想は、もちろん実践を見据えた改善プランである。
日本列島の価値を創造する
日本の国土の67%は山林だ。列島全体がジオパークといっても過言ではない場所で、自然景観をどのように活用していくべきか。
原は、「新しい移動のネットワークを構築し、列島全体に散在する日本独自の自然を有する場所をつなぎ合わせ、これまで想像もつかなかったバリューのチェーンを作ることもできるのではないか」と語る。
気候、風土、文化、食という世界共通の観光資源の面で、日本には高いポテンシャルがある。その資源の質は、国内人口よりインバウンドの数が上回る観光大国フランスにも劣らないはずだ。
しかし戦後75年間、製造業一辺倒でやってきた日本は、そんな観光資源を十分に活用しているとは言い難い。
原は2019年7月から始めた個人ウェブサイト「低空飛行」で、自ら日本各地に足を運び、そこで感じ取ったことを文章と映像、写真で紹介している。日本中を津々浦々動き回る「低空飛行」プロジェクトの一環で、原は島根県の隠岐島を訪れている。