原研哉らが考える、コロナ後の「インバウンド復活」日本観光業に必要なもの
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瀬戸内の夕日 makafushigi-iStock.
<製造業が衰退する日本が今後生き延びるためには、「観光」という産業について真剣に話し合う必要がある――。デザイナーの原研哉をはじめ、多彩な頭脳が集まる「瀬戸内デザイン会議」が考えた日本の未来とは>
20~30年後の日本経済は何で食べているのだろう。製造業中心で走ってきた日本の経済や産業は、「モノをつくる」から「価値をつくる」への移行が進んでいないのではないか。また、ポスト工業化社会の中で新たな産業の資源を見立てていく視点は、まだ想起されていないのではないか。
そんな問題意識から、日本の未来資源となりうる「観光」産業の未来について話し合う場として、2021年に第1回「瀬戸内デザイン会議」は開催された。
この会議の発起人は、日本デザインセンター代表でグラフィックデザイナーの原研哉、せとうちホールディングス株式会社の設立者であり、瀬戸内を中心に町おこし事業を展開する神原勝成、イシカワホールディングス株式会社代表ほか数々の事業を手掛ける石川康晴の3人。
そこに、3人が募った多様な領域のプロフェッショナルが加わることで発足したのが、「瀬戸内デザイン会議」である。
参加メンバーは、経営者、デザイナー、建築家、編集者、ライター、アーティスト、投資家、料亭女将、住職など多岐にわたり、いずれも各業界のトップランナーたちばかり。
グローバル化とコロナ禍によって、可能性と問題が錯綜しているこの時期だからこそ、会議から生まれた構想をただの空想に終わらせることなく、即座に実行していくことが肝要ということで、具体的な実行力を伴いつつ、多元的な観点から新しい観光の在り方を模索し得るメンバーが集まった。
日本列島という資源をどう活かしていくか。メタバースやAIが世界を席巻する今、オーセンティックな価値をどう扱っていくべきか。それぞれのヴィジョンを交差させながら、新次元の観光を実現していく会議体として、今後も継続的に会議が開催される予定だという。
厳島の旅館「蔵宿 いろは」に3つの構想
近畿圏から九州圏までの広域をつなぐ海としての瀬戸内は、現在、世界中から注目され始めているエリアだ。だが、会議名に付いている「瀬戸内」とは、瀬戸内という限られた地域を指すものではなく、インターローカルなメディアとしての瀬戸内を指しているという。
つまり、この会議は決して一地域の話に終始するものではなく、日本全体、あるいはアジアに広がっていく観光の在り方にまでヴィジョンを展開しようというのである。
この会議の第1回の議論をまとめた『この旅館をどう立て直すか 瀬戸内デザイン会議―1 2021宮島篇』(CCCメディアハウス)が発売された。
本書では、会議の開催場所となった厳島の旅館「蔵宿 いろは」を、瀬戸内海を回遊する人気客船旅館「ガンツウ」に匹敵する観光拠点とするためにどんな構想が考えられるか、を3つのチームが提案している。実例を通じて、議論を交えながら具体的な提案に落とし込むという一連の流れを読むことのできる1冊である。