10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡

2022年4月5日(火)12時45分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

「五穀祭菓をかの」の外観

「五穀祭菓をかの」の外観 撮影=筆者

ギャルになって派手に振る舞う...笑顔の裏に隠された劣等感

榊は1995年、「をかの」5代目の父と母の元に生まれた。本店は桶川駅前の商店街にあり、商店街を遊び場にして育った。

「サングラスかけながら、三輪車でパン屋さんに行って、また来たの? 飴ちゃん舐める? って。八百屋さんに行ったら、お使い来たの? りんご持って帰りなって。うちのお店で働いている人たちも含めて、みんなに育ててもらいました」

明るく、朗らかな榊は、子どもの頃から大勢の友だちに囲まれていた。しかし、その笑顔の裏側には切ない劣等感も隠されていた。

「10歳年上のお姉ちゃんは中学校にファンクラブがあったくらい綺麗だし、委員会の代表をしたり、目立つ存在でした。でも、私はなにをするにも人より劣っていて、勉強もできなかったし運動神経も良くなかった。自分が人より秀でてる部分は友だちがたくさんいることだけで、そこで認められるしかないと思っていたから、嫌われないようにすごく必死でしたね」

「ギャル」だったころの榊さん中学に入ると、メイクをするようになった。父親から「なに考えてんだ!」と叱られ、メイク道具を一式捨てられたこともあるが、それでもやめなかった。高校生になる頃には、バッチリメイクでミニスカートのギャルになっていた。もちろん、女の子としてかわいらしくなりたいという想いはあったが、それだけではなかった。

思春期に入ると、友だちに嫌われることをさらに恐れるようになり、自己主張できなくなっていた。それでおとなしい見た目をしていたら、いじめられるかもしれないという危機感があった。ギャルになって派手に振る舞うのは、自分を守るための武装でもあったのだ。

根はマジメなので、テスト前には「赤点は取らないようにしよう」とこっそり勉強した。高校3年生になって進路を意識し始めると、「ちゃんと人の役に立てる大人になりたい。好きなことで誰かの役に立てるって素敵だな」と考えた。

学校で国語の授業を受けていた時、ふと「国語は得意だし、高校の国語の先生になろう!」と思い立ち、大学に進学した。

両親の店を継いだ"あるきっかけ"

大学に入って想定外だったのは、同級生にギャルがひとりも見当たらなかったこと。周囲と話が合わず、明らかに浮いてしまった。そのうえ、授業についていけず、大学2年生になって小学校でインターンを始めた時、心が折れた。

「当時の私は見た目が派手だったから、担当の先生からすごく嫌われちゃって。嫌われたくないと思って焦るとミスるじゃないですか。それで空回りして、めちゃくちゃ怒られて。私は子どもを伸び伸び育てるような先生になりたかったけど、その前に職員室での人間関係が怖いし、先生に向いてなかったと思って、諦めました」

目標を失った榊は、ほとんど大学に行かなくなった。この頃、母親が病に倒れ、入院する。ある日、病院に見舞いに行くと、病室で両親がなにやら深刻な様子で話しているのが聞こえた。ただならぬ様子に、榊は足を止めた。ふたりは、「これからお店をどうするか」を話し合っていた。

父親と一緒に「をかの」を支えてきた母親が初めて不在になり、その存在の大きさが明らかになったのだろう。「もし店を潰すなら、これからどうするのか考えなきゃな」という父親の言葉を耳にして、動揺した。

「お店がなくなるとしたら寂しい。でも、私は気が弱くて人の後をついて行くタイプだから、継ぐのは絶対無理。どうしよう......」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中