自動運転車の開発競争、先頭ゴールは意外にもトラック?
混雑した街中の道路に比べて主要幹線道路の方が環境としてシンプルな分、ロボタクシーより長距離トラックの方が自動運転化は容易ではあるが、それでも自動運転トラックを開発する企業の幹部は、自社の成長ペースについて慎重な姿勢を崩さない。
「この業界で繰り返されてきた誇大な約束のことは非常に意識している」と語るのは、トラック向けの自動運転テクノロジーを開発するトゥーシンプルのチェン・ルーCEO。同社は4月に新規株式公開(IPO)を行い、評価額は85億ドルだった。
「現在ではこの業界も、問題が複雑であり、その解決にはもっと長い時間がかかることを理解している」と同CEOは述べた。
トゥーシンプルでは今のところ、安全監視役のドライバーを乗せた自動運転トラック約50台を、温暖な米国南部の複数の州で走らせている。2024年までには米国内の主要幹線道路をカバーする全国規模のネットワークを実現する計画だ。
この計画には、主要幹線道路のマッピングや南部に比べて厳しさの増す北部の州の天候や道路条件への対応、またフォルクスワーゲンの商用トラックメーカー、トレイトン傘下のナビスターが開発する新たな自動運転トラックへの本格的な投資が含まれる。
「行く手は遠い」
だが真に全国規模のネットワークを展開するには何年もかかるかもしれない。自動運転トラックは、「人間のドライバーを相手にする」という大きな課題を抱えているからだ。
自動車産業向けに膨大な自動運転データを処理するセンサー、電子システムを開発しているTEコネクティビティーのラルフ・クラドケ最高技術責任者は、「頭に血の上った男性ドライバー」に遭遇した場合、自動運転車は必ずブレーキを掛けることになると語る。
「自動運転車は交通の流れの中で常に最も遅い部類になるだろう」と同氏は述べた。
英国のスタートアップで自動運転ソフトウエアを開発するオクスボティカの創業者ポール・ニューマン氏は、ロボタクシーが今も「北極星」であることには変わりない、と話す。つまり、明確だが遠い先の目標である。
だが今のところ、彼はもっとシンプルなアプリケーションに力を注いでいる。その一部は、オーストラリアのスタートアップであるアプライドEVが開発した用途特化型の完全電動による自動運転車を使ったものだ。
英イングランドのオックスフォードにあるオクスボティカ本社で、実験車両を披露しつつ、「行く手は遠い」とニューマン氏は言う。「エンジニアリング分野で最も解決困難な問題の1つだ」
オクスボティカは、日立建機グループのウェンコと提携して、鉱山で使用する車両の開発に取り組むほか、エネルギー企業のBPとも、へき地にあるウィンド(風力発電)ファーム、ソーラー(太陽光発電)ファーム向けの車両など、多種多様な可能性を探っている。
BPでデジタル科学工学担当のシニアバイスプレジデントを務めるモラグ・ワトソン氏は、オクスボティカのテクノロジーを使えば、大規模な発電サイトを監視し、機器を回収して修理担当者のところまで運んでくることも可能だと指摘。同氏によれば、2022年までさまざまな選択肢をテストしてみる予定だという。
「産業レベルでの自動運転で何ができるか、私たちはまだ手探りの状態にすぎない」とワトソン氏は語った。